同棲を確信する卓弘

それから2人は、空いている2階の一室を使うことや、必要な家具について話し合い、同棲に向けた準備を始めることになった。しかし、卓弘が現在使っている家具は手狭なワンルームに合わせたものばかりで、2人で暮らす部屋には向いていなかった。そのため観月と相談しながら、大きめのベッドや収納棚などを新しく購入していた。

代金は合わせて20万円近くなり、決して安い買い物ではなかった。しかし、これから観月との生活が始まると思えば、惜しいとは感じなかった。家具を選んでいる間も、収納棚に2人の服をしまうことや、休日には同じベッドで遅くまで眠ることを想像していた。購入した家具はすべて観月の実家に届くように手配をした。あとは今の部屋の荷物をまとめて引っ越したら新しい生活が始まる。卓弘はそう信じていた。

そんなある日の夜、観月から電話がかかってきた。

「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「ああ。そっちはどう? すぐでも住める感じに荷物とか全部出しておいてくれた? できれば掃除とかもやっておいてほしいんだけど」

卓弘は意気揚々と口を開いたが、観月は黙ったままだった。

「……どうした?」

しばらく沈黙が続いたあと、申し訳なさそうな声で観月は話した。

「ごめん。私、ずっと考えてたんだけど……」

観月はそこまで言って、また黙り込んだ。

「何を?」

「このまま卓弘と一緒に住むのは、難しいと思う」

「は? どういうこと? 今さら延期したいって言うのか?」

「……違うの」

観月は震える声で否定したあと、長く息を吐いた。

「同棲だけじゃなくて……別れたい」

「……え?」

あまりのことに卓弘は何が起こっているのか理解できなかった。

「な、何を言ってるんだよ……?」

「ごめんなさい。家具を買ったあとに言うことじゃないって分かってる。でも本当にあなたとこのまま一緒に暮らし始めるって考えたらどんどん不安になって……。それで自分の中で考えて、やっぱり一緒になるのは無理かもって思って……」

「いや、急に別れるって言われてもさぁ!」

「本当にごめんなさい」

そのまま電話は切られ、卓弘はスマホを耳に当てたまま固まった。

●交際1年を迎え、恋人・観月との結婚を意識し始めた卓弘。祖母・依子を1人にできないという観月の意向を受け、観月の実家で3人暮らしを始めることにし、約20万円の家具まで購入する。しかし、引っ越しを目前に控えたある夜、観月から突然「別れたい」と告げられてしまう…… 後編【「もうかけてこないでほしいです」別れを告げた彼女に執着…実家に押しかけ追い詰める男の暴走】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。