休日の昼下がり、観月は駅前のデパートに入るなり、催事場から漂ってきた甘い香りに足を止めた。
「ねえ、卓弘、あれ見て。期間限定だって」
食品売り場の一角には、各地の菓子を集めた特設コーナーができていた。観月は卓弘の返事を待たずに歩き出し、店員と何か会話をし出した。
祖母思いの恋人との買い物
地元の食品メーカーで営業事務をしている観月は、新商品や珍しい食べ物を見つけるとすぐに反応する。30歳になった今も、興味を引かれたものへ駆け寄る姿には子どものような勢いがあった。それは仕事柄というよりも、もともとの性格なのだろうと卓弘は思っていた。
卓弘が隣に並ぶと、観月は変わった味のせんべいを手に取って見せてきた。
「これどうだろ? おばあちゃんに買って帰ろうかな?」
観月は現在、実家で祖母の依子と2人で生活している。幼くして両親を亡くし、祖父母に観月は育てられてきたそうだ。
「依子さん、甘いもの好きだけど、これは少し硬くない?」
「おばあちゃん、入れ歯じゃないよ」
観月は笑って返事をした。しかし卓弘は、80歳の依子にはもっと柔らかいものがいいだろうと思い、別のところから羊羹を取った。
「これがいいんじゃない? 依子さんならこれでいいよ」
「ええ、でも羊羹なんてどこでも買えるし……」
「食べられなかったら意味ないだろ」
そう言って、卓弘は羊羹を店員に渡した。
「これ買います。あの、同じ賞味期限の商品が100円引きになってたんですけど、これはどうして値引きされてないんですか?」
卓弘が聞くと店員は驚き、あたふたし出した。
「あ、す、すいません。貼り忘れてました」
「お願いしますね。危うく定価で買うところだったので」
そう言うと、店員は恐縮しながら100円引きにしてレジを通し、袋に入れて渡してくれた。店を離れると観月が声をかけてきた。
「私が買おうとしてたのに……」
「いいんだよ。依子さんには俺もお世話になってるから、これくらいはさせてくれよ」
卓弘がそう言うと、観月は笑ってうなずいた。
「ありがとう。それじゃ帰りにうちに寄ってってよ。直接、卓弘から渡してね。きっと喜ぶから」
「そう? だとしたら、夕飯も食べてけって言われるだろうな」
2人は笑い合いながらデパートを歩き、目的の服屋を目指した。
