周囲の衣装事情に驚く沙織
運動会シーズンも終わり、園庭の木々はすっかり色づいている。沙織は時折コートの襟をたぐり寄せながら、間もなく降園してくる娘の未来を待っていた。そのとき、近くにいた母親たちの会話が耳に入った。
「学芸会の衣装、もう決めた?」
「まだ。去年はみんなすごかったって聞いたから、ちょっと焦ってる」
「そうそう。ブランドのワンピース買った人もいたらしいよ」
沙織は思わずそちらを見た。園から指定されているのは色や雰囲気など、大まかな条件だけで、実際に何を着せるかは各家庭に任されている。先日の説明会でそのことは知っていたが、まさかそこまで力を入れる家庭が多いとは思っていなかった。
そこへ、顔なじみのママ友が沙織の隣にやってきた。
「未来ちゃんのところは、衣装どうする?」
「まだ何も決めてない。去年はすごかったって聞いて驚いてたところ」
「ああ、そうみたい」
ママ友はそう言って、スマートフォンを取り出した。
「今年ももう予約してる人いるよ。ほら見て。この前、ここのブランドがかわいいって教えてもらったの」
表示された値段を見て、沙織は目を見張った。
「えっ、これ、結構するね」
「そうなの。でも舞台だと華やかなほうが映えるし仕方ないのかなって」
確かにかわいらしい。だが、一度きりの学芸会のために数万円の衣装を買うのは高いと感じてしまう。倹約家の夫・健太なら、値札を見た瞬間に却下するに違いないと思うと、急に気が重くなった。
