市販品を巡り夫婦の意見が対立

「ママー!」

間もなく門から飛び出してきた未来が幼稚園カバンを揺らしながら、こちらへ駆け寄ってくる。沙織は、一気に破顔して娘を抱きしめた。

「おかえり。楽しかった?」

「うん! 今日ね、妖精さんのダンスしたの!」

「すごいね。帰ったらママにも見せてくれる?」

「いいよ!」

帰宅してからも未来は上機嫌で、覚えたばかりの動きを何度も披露した。これだけ楽しみにしているのだから、周囲の子に見劣りしないくらいの衣装は用意してやりたい。得意げな娘に歓声と拍手を送りながら、沙織はそう思った。その夜、未来を寝かしつけたあと、沙織は昼間聞いた話を健太に切り出した。

「学芸会の衣装なんだけど、市販のものを買ったほうがいいかもしれない」

「え、わざわざ買うの?」

健太はすぐに眉をひそめた。

「どうせ1回しか着ないんだろ?」

「そうだけど、みんな結構ちゃんとしたものを用意するみたい」

「作ればいいじゃん。そのほうが安上がりだろ」

あまりにも簡単に言われ、沙織はむっとした。

「私が裁縫苦手なの知ってるでしょ」

「家にもミシンはあるし、ネット見れば作り方だって出てくるだろ」

沙織は言い返したかったが、健太はもう話が済んだようにテレビへ視線を戻している。

「……とりあえず、やってみるけど」

口にしてから、沙織は小さく息を吐いた。

市販品にお金を出すことが許されないなら、まずは自分で挑戦するしかない。未来の笑顔を曇らせたくないと思う一方で、ほとんど使ったことのないミシンの姿を思い浮かべるだけで、不安が胸に広がっていった。