初心者には難しい裁断とミシン
翌日、沙織は未来を幼稚園へ送ったあと、手芸店へ向かった。
売り場には色も質感も違う布がずらりと並んでいる。沙織はスマートフォンに保存してきた参考画像と見比べながら、妖精らしい緑色の布や裏地、糸、装飾に使えそうな素材を選んだ。かごに入れるたびに値段を計算し、なるべく余分なものは買わないようにする。
「これで足りるよね……」
何度も確認してから会計を済ませ帰宅すると、しばらく使っていなかった家庭用ミシンをダイニングテーブルに出した。ネットで初心者向けの子ども用衣装の作り方を探し、型紙も用意する。ところが、始めてみると思った以上に難しかった。左右対称に切ったはずの布を重ねると、端がわずかにずれている。線を引き直して裁断すると、今度は予定より小さくなってしまった。
「なんでこうなるの……」
沙織はため息をつきながら、それでも作業を続けた。ミシンの使い方は一応知っている。
しかし、いざ縫うとなると話は別だった。縫い代を一定に保っているつもりでも少しずつ曲がっていく。やっとまっすぐ進んだかと思えば、今度は予定より先まで縫ってしまう。気に入らない部分をほどき、もう一度縫う。その繰り返しだけで、あっという間に時間が過ぎた。
やり直しで材料費まで増加
数日かけて、どうにか服らしい形にはなった。
「ふう……やっとできた」
沙織は衣装をハンガーに掛け、全体の形を確かめたが、すぐに違和感に気づいた。丈が思ったより短いうえに、脇のあたりも妙に窮屈そうだ。妖精らしく軽やかに見せたかった裾も、広げてみると不格好だった。
「あれ? なんか変……? うーん……ここも直さないと」
沙織はため息をつき、気になる部分を指でつまんだ。縫い目をほどいて調整すれば直せそうだが、また時間がかかる。ミシンの前に座り直し、必要な箇所を1つずつ確認していった。
結局、布の一部はやり直しで使い切ってしまい、再び手芸店へ買い足しに行くことになった。
「はあ……情けないな」
レシートを見ながら、沙織はむなしくなる。安く済ませるために手作りしているはずなのに、失敗するたびに材料費が増えていく。
しかも一日中ミシンに向かえるわけではない。洗濯をして、掃除をして、買い物へ行き、夕方になれば未来を迎えに行き、夕食の準備をする。細切れの時間で作業するうちに、1日が終わってしまう。
そんなある日の夕方、未来がテーブルの上の衣装をのぞき込んだ。
「ママ。これ、未来の妖精さん?」
「そうだよ。でも、まだ途中」
未来は緑色の布にそっと触れ、顔をほころばせた。
「きらきらできれい。早く着たいな」
「うん。ちゃんとできるまで待っててね」
その笑顔を見ると、疲れが吹き飛んだ。
夜、未来を寝かしつけたあと、沙織は再びミシンの前に座った。家の中は静かで、聞こえるのは布を送る機械音だけだった。少し進んでは止め、縫い目を確かめる。
だが、完成まではまだ遠い。
学芸会の日は、容赦なく近づいていた。
