過保護だった厚美の反省
友莉が麦茶のグラスを持って再び座るのを待ってから、厚美はおもむろに口を開いた。
「友莉、この前はごめんね」
友莉はグラスを置き、意外そうに目を丸くした。
「どうしたの」
「おかしいと思ったのは事実よ。でも言い方がよくなかった。友莉が言ったとおり、初めてだから何も分かってないみたいに決めつけたし、私のほうが経験があるからって、話を聞こうともしなかった」
口にしてみると、自分が何日も胸に抱えていたものが、ようやく形になった気がした。
「心配で仕方なくて、つい先回りして口出ししてしまったの。でも、あれじゃ友莉が腹を立てるのも当然よね」
「もう気にしてないよ」
友莉はあっさり答え、空になったグラスを手に立ち上がった。
「お母さん、いつも心配しすぎだから。過保護なのも、まあ、いつものことだし」
「それはそれで反省しないといけないんだけど」
厚美が苦笑すると、友莉も小さく笑った。どうやら先日の口論を深刻に考えていたのは、厚美のほうだけだったらしい。
友莉は冷蔵庫を開け、冷凍室をのぞき込んだ。買い置きしたアイスを物色しているようだ。
「夏休み、まだあるし、次のバイト探そうかな」
「え、もう新しいバイト探すの?」
「うん、友達と一緒に。今度は時給だけじゃなくて、研修とかミーティングの時間にも給料が出るかどうかも、ちゃんと確認する」
厚美は、瞬時に頭に浮かんだいくつものセリフを慌てて振り払った。友莉は今回の経験を次に生かそうとしている。親の力が必要になれば、そのときに相談に乗ればいい。
「また決まったら教えてね」
「うん……今日はこれにしようっと」
「夕飯前だから、1個だけね」
「分かってます」
友莉はわざと丁寧に返事をして、棒アイスを1本取り出した。厚美も立ち上がり、途中だった夕食の支度へ戻る。まな板の上には、切りかけの夏野菜が並んでいた。
心配が消えてなくなったわけではない。これからも、口を挟みたくなることは何度もあるだろう。それでも、なるべく友莉の意思を尊重するようにしよう。
「次は涼しいところがいいな。スーパーとか」
「そうね。いいんじゃない」
背後から聞こえる友莉の声に、厚美は振り返らずに答えた。小気味よい包丁の音に混じって、窓の向こうで鳴くセミの声が響いていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
