娘が自ら出した結論

昼下がり、厚美が洗濯物を畳んでいると、玄関の扉が開く音がした。時計を見ると、友莉が帰るには2時間ほど早い。

体調でも崩したのかと慌てて立ち上がり、廊下へ出る。ところが友莉は普段と変わらない顔で靴を脱ぎ、肩からカバンを下ろしていた。

「今日は早かったのね。何かあった?」

「ああ、うん。バイト、辞めてきたの」

あまりにあっさりした口調に、厚美は言葉を失った。何かトラブルがあったのか。働いた分の給料はどうなるのか。いくつもの疑問が浮かんだが、まずは話を聞かなければと思い直す。

「……どうして辞めたのか、聞いてもいい?」

「この前、お母さんが言ってたこと、あとで考えたの。あのときは腹が立って無視しちゃったけど、絶対参加しなきゃいけないのに無給っていうのは、確かに変かなって」

友莉はリビングへ入ると、カバンを置き、椅子に腰かけた。

「それで、一緒に働いてた子にも話したら、その子も気になってきたみたいで。今まで出た研修とミーティングの回数とか、時間とか、法律のこととかを2人で確認したの」

厚美は口を挟まず、向かいの椅子に座った。友莉が自分たちで調べていたことが意外だった。

「それで今日、2人でオーナーに聞いたんだ。あの時間って、本当に給料が出ないんですかって」

「オーナーは何て?」

「オンラインで参加してるだけだから勤務じゃないって。みんな無給で出てるんだから、そうしてもらわないと困るって言われた」

友莉たちは、参加が必須なら納得できないと伝えたらしい。するとオーナーは態度を変えることもなく、文句があるなら辞めてもらって構わない、と言い放ったという。

「それで、2人とも辞めるって言った。そんなふうに言われてまで続けたくないし」

「そうだったの。お給料のことは聞いた?」

「うん。給料のことも確認したよ。今まで働いた分は、予定どおり給料日に振り込むって。エプロンもそのまま返してきた」

厚美の肩から、ゆっくりと力が抜けた。

友莉は自ら友人と相談し、規則を確かめ、相手と直接やりとりをしたうえで結論を出していた。初めてのアルバイトだから何も分からないと決めつけていた厚美の判断は、早計だったのだ。

「そっか。ちゃんと自分たちで考えて決めたのね」

「うん。まあ、最初のバイトがこれって、ちょっと外れだったけど」

友莉は苦笑し、冷蔵庫から麦茶を取り出した。その落ち着いた横顔は、どこかいつもより大人びている。厚美は知らないうちに自分の手を離れていく娘の姿を、ただ静かに見つめた。