義母を黙らせたい郁美

もともと数子は、郁実が外で働くことをあまりよく思っていない。家のことがおろそかになると言うくせに、家計を考えて買い物をすれば、今度は安物だと責める。

「たまには、もう少しまともなものを買ってきたらどうなの」

言い返したい台詞がいくつも浮かんだ。だが、啓太はまだ帰っていない。今ここで数子を刺激したとして、爆発した怒りを受け止めるのは郁実1人だった。

「すぐ支度しますから座っててください」

それだけ言って、郁実は背を向けた。背後では、数子がまだぶつぶつ言っている。

「昔は土用の丑の日くらい、もう少しちゃんとしたものを食べたものだけどね。情けないわ」

郁実はうなぎのパックを見下ろした。透明なふた越しに、濃いタレが照明を受けて光っている。

(また言いたい放題言って……今に見てろよ)

郁実は乱暴にパックのふたをはがした。怒りに任せて開けたせいで、透明な容器が小さく音を立てる。

中のうなぎは、売り場で見たときより少し固そうに見えた。冷めたタレが表面に厚くまとわりつき、ところどころべたついている。

「このまま温めたら、また言われるな……」

居間のほうから、数子の声がかすかに聞こえた。

「半額のうなぎなんて、土用の丑の日に出すものじゃないわよねえ」

郁実は返事をしなかった。代わりに、まな板の横へパックを移し、うなぎをじっと見る。

「あっ、そうだ……」

咄嗟の思いつきだが、試してみる価値はある。郁実は1人で何度かうなずくと、早速支度に取り掛かった。