店を守るための行動

慶介は自分の考えの甘さを思い知った。店の敷地の範囲を掃除しておけばそれでいいと思っていた。客が店の外でたむろしたり騒いだりしてもそれは店の責任ではないと決めつけていた。

慶介はため息をついてスマホをしまった。現実を知ってからは坂本に対する怒りは消えていったものの、強気に言い返してしまった気まずさがこみ上げてきた。

坂本の主張は間違っていなかった。慶介は他の店や近隣の人たちに迷惑をかけないような策を考えなければいけなかった。

 

   ◇

 

その日、慶介はいつもより早い15時に自分の店に向かった。

店に着くやいなや、まず入り口の横に置いていた灰皿の位置を変えた。通りに面した場所ではなく店の壁際に寄せ、周りに人が広がらないようにした。さらに灰皿の近くに日本語と英語、スペイン語などで作成した「たばこは灰皿へ捨てる」「大声でしゃべらない」という旨を書いた張り紙を貼った。

張り紙にしてみるとなんてことのない当たり前のことだったが、それすらも自分はできていなかったのだと張り紙を見て慶介は思った。

それから、慶介は昼の営業を終えて店を閉めていた坂本の店に向かった。正面の出入り口をノックすると中から坂本が出てきた。

「……どうしたんだ? まだ文句があるのか?」

警戒心をあらわにする坂本に対して慶介は頭を下げた。

「今朝は申し訳ありませんでした」

「……謝りに来たのか」

「はい。あのあと自分なりに調べてこちらの店に責任があるということが分かりました。それで何も知らずに坂本さんに言い返してしまって本当に申し訳ないと思いまして……」

慶介は顔を上げた。坂本の表情はまだ硬かった。

「それは別にいい。謝ってほしいのはうちに迷惑をかけたことだ。うちだけじゃない。他の店の人たちだって同じ気持ちだぞ」

「……はい。そうですよね」

「ちゃんと対策をしてくれるんだろうな?」

慶介はしっかりとうなずいた。

「はい、ひとまず灰皿の位置を変えて張り紙をしました。お客さんにもできる限り声かけしようと思います」

「……そうか。とりあえずそういう気持ちになってくれたことは良かった。ただ口だけで済ませるようなことはしないでくれよ」

そう言ってドアは閉められた。まだ完全に信用を得られたわけではないのだろう。あとは行動で示すしかなかった。