販売会社が「何を売るか」を決めていた時代
長らく投資信託業界では、販売会社が商品選択のほぼすべてを握っていた。運用会社がいかに優れたファンドを作っても、販売会社が「売る」と決めなければ一般の投資家には届かない。そして販売会社は新しいファンドを売るたびに販売手数料を得るというスキーム。
この構造が生んだのが回転売買だ。基準価額が上がれば「儲かったから次のファンドに乗り換えましょう」と売却を促し、また新しいファンドを勧める。運用会社、投資家、そして現場の販売員。三者にとって消耗戦以外の何物でもなかった。
このままで良いのだろうか。同じファンドを積み立て続け、長く育てることが重要ではないか——。現在にも通じるこの思いが開いた活路が「資金フロー」を見ることだった。
「資金フロー」という視点——本当に良いファンドを選ぶ基準
基準価額や騰落率ではなく、ファンドに毎月コンスタントに資金が流入し続けているか、言わば「売り方」を見る。当時、『投資信託事情』では「新ファンドが来る!」という企画を連載していた。取材に行くと、どのファンドも素晴らしく見える。ところが1年もすると、あれほど期待を集めたファンドから資金がどんどん流出していく。
そこで「資金流入ランキング」の連載を開始した。当時、3,000本以上のファンドがあったが、「毎月の設定額が解約額を12カ月以上、上回るファンドはごくわずか。初めの頃は6カ月で見るしかなく、それでも数十本しかありませんでした」
数字は実態の厳しさを示していた。それでも地道にランキングを続けるうち、運用会社が投資家に直接販売する「直販ファンド」の隆盛、2001年に確定拠出年金(DC)、2014年にNISA(少額投資非課税制度)、2018年にはつみたてNISAが誕生し、積立投資の普及が加速していった。それに伴い、ランキングに登場するファンドは300本以上に増加。資金流入が継続するファンドが増えたことは、投資信託業界の健全化を示す1つの指標となった。
モーニングスター・ジャパン
「投資信託事情(JITRI)」チーフ・エディター
島田知保(しまだ・ちほ)氏
国際基督教大学卒。食品会社、宇宙科学研究所(現JAXA-ISAS)、衆議院議員秘書を経て1995年より投資信託の専門誌「投資信託事情」(1959年発刊、2024年4月号にて休刊)発行人・編集長。2008年、事業譲渡によりイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移籍。2024年5月イボットソン会社分割によりモーニングスター・ジャパンにて活動開始。
プロ向け、一般向けを問わず、1990年代から一貫して長期・積み立て・分散投資やESG・社会的責任投資をテーマに活動。個人投資家の交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まるタベ(東京)」共同幹事、「個人投資家が選ぶ!(旧投信ブロガーが選ぶ!)Fund of the Year」運営委員など、投資リテラシー向上のために個人投資家に向けた任意の活動も行っている。
2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」
2017年同「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
2016年より同「市場ワーキング・グループ」(いわゆる「老後2000万円問題」報告書)委員
2022年より同「顧客本位タスクフォース」メンバー
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本連載は、投資信託専門誌『投資信託事情』(1958年創刊、2024年休刊)の発行人・編集長を務めた島田知保氏への取材をもとに構成しました。島田氏はモーニングスター・ジャパンに在籍、金融審議会の各ワーキング・グループへの参加など、制度設計にも深く関わってきました。現在はwebサイト『モーニングスター・ジャパン』コンテンツ編集長として活躍しています。
