売れない遺産の現実
この建物自体に価値があるようには、とても見えない。かといって周囲に店や駅があるような利便性の高い場所でもなかった。住むことも貸すこともできそうにないものを、なぜ自分が維持しなければならないのか。怒りに任せて、「固定資産税 払わない」と検索する。
「は?」
表示されたページを読み進めるうちに、康介の指が止まった。納付期限を過ぎれば延滞金が加算され、督促を無視すれば預金や給与などを差し押さえられる可能性があるらしい。
「差し押さえ……?」
口に出した途端、その言葉が急に現実味を帯びた。税金なのだから、払いたくないでは済まない。至極真っ当な現実を前に、背中に冷たい汗が流れた。
「ちくしょう」
今度は売却について調べた。
この際、値段などどうでもいい。誰かに引き取ってもらえれば、それでよかった。だが、古い建物が残った土地は買い手がつきにくく、解体費用を差し引けば持ち出しになる場合もあるという。
サイトを渡り歩くうちに「相続放棄」の文字を見つけ、康介は身を乗り出した。しかし、相続を知ってから一定の期間内に手続きが必要で、財産の一部だけを選んで放棄することもできないと分かる。
昨年、美沙に渡された書類へ何度も署名したことを思い出した。説明を受けた気もするが、内容はほとんど覚えていない。
「だからって、こんなのありかよ」
吐き捨てても、画面の中の廃墟は何も答えなかった。
困り果てた康介は、気がつくとスマートフォンを手に取り、美沙に連絡していた。腹立たしいが、今頼れるのは、姉しかいない。多忙な姉と週末に会う約束を取り付けた途端、情けないほど安堵している自分がいた。
●亡父の遺産として康介に転がり込んだのは、価値の見えない古びた建物と50万円の固定資産税だった。何も聞いていないと怒りを募らせた康介は、唯一頼れる姉・美沙に助けを求めるが…… 後編【医者の姉を逆恨みした32歳弟の末路…亡父の遺産トラブルで暴かれた“被害者面”の人生】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
