「子どものため」が夫婦をすれ違わせた

また別の理由もありました。洋子さんは中高一貫校時代の同級生たちと今も交流があります。華やかなキャリアを築いている人も少なくありません。彼女たちの生活水準は、明らかに世間平均より高く見えました。

その土台になっているのが、中学受験や中高一貫校教育で培った学力や知性なのではないかと洋子さんは考えていました。

「自分の子どもにも、その環境を与えてあげたい」「可能性を広げてあげたい」……そんな思いは、いつしか焦りへと変わっていきました。

しかし幸一さんから見ると、それは別の姿に映っていたといいます。

「子どものためと言いながら、結局は親の見栄なんじゃないか」「そもそも身の丈に合っていないのではないか」……そう感じるようになっていたのです。

実はこの頃、別の問題も起きていました。
洋子さんが業務委託で請け負っていたWEBデザインの仕事で、長年付き合っていた取引先が業績悪化により事業を縮小し、契約が打ち切られてしまったのです。収入は大きく減りました。

「私も働いているから大丈夫」「共働きだから何とかなる」。そう信じていた前提が、大きく揺らいでしまったのです。

教育ジャーナリストとして取材をしていると、中学受験家庭の母親たちから「突然怖くなった」という言葉を聞くことがあります。それまで数字でしかなかった教育費が、ある日突然、自分たちの人生全体を圧迫していることに気が付くのです。

洋子さんも同じでした。夜中に目が覚めることが増え、眠れなくなるとスマートフォンを開きます。

「老後資金 足りない」「教育費 家計破綻」、そんな検索ばかりするようになりました。