<前編のあらすじ>
32歳のフリーカメラマン・俊介は夢を追い続けている。そんな俊介を支えてくれているのが、11歳年上で勤務医の恋人・大輝だった。俊介の夢を否定しない大輝との穏やかな同棲生活は、俊介にとって大切な居場所になっていた。
しかし大輝はLGBTQ+の権利拡大を求める団体の活動に強く関わるようになる。帰宅は遅くなり、俊介の知らない名前や予定が大輝の話の中で増えていった。俊介は応援すべきだと思いながらも、置いていかれるような寂しさを募らせる。
久しぶりに2人で食事をしようと大輝の好物を用意した俊介だったが、帰宅が遅くなった大輝。活動は2人の将来のためだと説明されるも、俊介が本当に伝えたかったのは難しい制度の話ではなく、今の2人の時間が失われているつらさだった。
●前編【突然生活を支えてくれた彼氏が変貌…レインボープライドで生まれた同性カップルのひずみ】
俊介がようやく見つけた言葉
昼下がり、俊介はレンタルスタジオで商品撮影を終え、駅前の通りを歩いていた。雑貨店の店主はこちらが恥ずかしくなるほど何度も礼を言ってくれたし、写真の出来も悪くなかった。しかし報酬は、多少気取った昼食を食べれば半分近くが消えてしまう。バッグの中のカメラが、いつもより少し重く感じられた。
「あーあ」
駅へ向かう途中、商店街の掲示板にレインボーカラーのポスターが貼られていた。プライド月間のイベント案内らしい。通りのあちこちにある柱にも、同じ色の装飾が巻かれ、広場には週末の催しを知らせる看板まで出ている。俊介は足を止めた。
「これ、大輝の……」
そこに書かれている言葉が大切なのは理解できる。誰かにとっては、心が救われるような類のものなのかもしれない。
だが、それは今目の前にある幸せを放りだしてまでやらなければいけないことなのか。そもそも、どうして自分たちだけ――ただ、同性が好きだというだけで、いわゆるストレートの人たちならしなくてもいい苦労や義務を背負わなければいけないのか。
俊介にはどうしても分からなかった。ただ、大輝と2人で楽しく過ごしていたいだけだった。
「ただいま」
帰宅すると、部屋は静かだった。大輝はまだ病院にいる時間だ。俊介はカメラバッグをソファの横に置き、ダイニングテーブルに残っていたチラシを手に取った。大輝が置いていったイベントの資料だった。
「楽しく暮らすため、か」
つぶやいて椅子に座る。チラシには、制度のこと、家族として扱われない場面のこと、相談窓口の案内が並んでいた。大輝が言っていたことと、確かにつながっている。
「関係ないわけじゃ、ないんだよな」
そう思っても、俊介に一番近い現実はそこではなかった。俊介はチラシを置き、背もたれに体を預けた。
大輝を責めたいわけではない。売れない俊介を急かさず、常に夢を応援してくれたのは大輝だった。大輝の何気ない言葉や表情に何度も励まされてきた。
「大輝のそういうとこ、好きになったんだよな」
だから、彼の活動を否定したいわけではない。大輝が大事だと思うなら、応援したい気持ちもある。ただ、自分のほうも見てほしかった。未来のためだと言われても、今の2人が少しずつすり減っていくのはつらい。活動に向かう大輝を見て、置いていかれたように感じたこと。それをそのまま言えばよかったのかもしれない。
俊介はスマホを手に取り、大輝とのトーク画面を開いた。メッセージを送ろうとして、すぐにやめる。文字では、うまく伝わらない気がした。
「寂しい」
声に出してみると、すとんと腑に落ちた。情けなくても、子どもっぽくても、本当のことだった。窓の外では、少しずつ夕暮れが迫っていた。
