俊介が絞り出した本音
休日の朝、大輝はダイニングテーブルの上に荷物を広げ、イベント用のTシャツを畳んで鞄に入れていた。
資料の束、ペットボトル、タオル、モバイルバッテリー。1つずつ確認する動作に迷いはない。俊介はソファの端に座ったまま、その手元を見ていた。
「暑くなりそうだね」
「そうだな。水分は多めに持っていく」
そう答えた横顔は少し眠そうで、それでいてどこか引き締まっていた。
俊介は膝の上で指を組んだ。言うなら今しかない。そう思うのに、喉の奥が詰まる。大輝が鞄のファスナーを閉め、玄関へ向かおうとしたとき、ようやく声が出た。
「大輝」
大輝が振り返る。
「この前は、怒って悪かった」
少し驚いた顔をしてから、大輝は鞄を床に置いた。
「怒ってたっていうか、拗ねてたな」
「うん、拗ねてた。でもね、俺は大輝の活動自体が嫌なわけじゃない」
言葉にすると、頭の中が整理されていく気がした。俊介は視線を落とし、ゆっくり続けた。
「最近、一緒にいる時間が減って、寂しかった。大輝が俺の知らないところで、すごく生き生きしてて、楽しそうで。置いていかれたみたいに感じたんだと思う」
自分で言っていて、子どもじみていると思った。しかし、それ以外の言葉にはできなかった。
「俺、活動のことをちゃんと分かってないけど、大輝が頑張ってることを邪魔したいわけじゃない。ただ……前みたいに一緒に飯食って、映画観て、どうでもいい話をしたかっただけなんだよ」
大輝はすぐには答えなかった。俊介の言葉を受け止め、咀嚼するように、しばらく黙ってから口を開いた。
「寂しい思いをさせたのは悪かった。ごめんな」
その一言で、俊介の肩から力が抜けた。
「俺は、俊介との生活を軽く考えてるわけじゃない。むしろ、俊介とこれからも楽しく暮らしていきたいから、この活動をやってるんだ」
大輝の声は静かだった。
「今は2人とも若いし、健康だから、現実味のない話に思えるかもしれない。でも、制度や権利が変わらなければ、俺たちの生活はいつか守れなくなるかもしれない。面倒でも、今やらなきゃいけないことがあると思ってる」
「だから、大輝は行くんだね」
俊介が言うと、大輝はうなずいた。
「うん、俺は行くよ。帰ったら、ゆっくり話そう」
引き止める台詞は出てこなかった。しかし、寂しさが消えたわけでもなかった。大輝は靴を履き、ドアノブに手をかけた。
「行ってくる」
「……行ってらっしゃい」
ドアが閉まる音がして、部屋は静まり返った。
俊介はしばらく玄関に立ち尽くすと、それからリビングに戻り、テーブルの上に置かれたチラシを手に取った。レインボーカラーの帯と、イベントの文字が目に入る。朝の光がリビングの床に長く伸び、窓の外からは休日の街の音だけが聞こえていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
