ニュースの違和感

日本生命保険が米ブラックストーンと包括的な戦略提携を結び、今後5年間で約1兆5000億円の新規資金を、プライベートクレジットおよびストラクチャードクレジット※戦略に配分する見通しであることが発表された。

※ストラクチャードクレジット…複数のローンや債権などを一つにまとめ、リスクや利回りに応じて証券化した金融商品および運用手法

このニュースに違和感を覚えた人もいるかもしれない。ここ数カ月、同じブラックストーンが運用する個人投資家向けプライベートクレジット商品では、解約請求の増加が報じられてきたからである。

一方では個人投資家が資金を引き揚げ、他方では国内最大手の生命保険会社が巨額の長期資金を投じる。同じ「プライベートクレジット」という名前で語られているにもかかわらず、資金の流れは逆方向に見える。

しかし、これは必ずしも矛盾ではない。問題は、プライベートクレジットという資産クラスそのものではなく、それをどのような商品に仕立て、どのような投資家が、どの程度の期間保有する前提になっているかにある。

『プライベートクレジット』という言葉が覆い隠すもの

プライベートクレジットとは、銀行を介さずに企業へ資金を貸し出す融資の総称である。投資家が実際に保有するのは「プライベートクレジットそのもの」ではなく、それを組み込んだファンドや投資商品の持ち分である。

したがって重要なのは、融資先の信用力だけではない。投資家がどのような条件で資金を入れ、どのような条件で資金を引き出せるのかという「器」の設計である。

個人投資家向けに広がってきた商品の多くは、非上場BDC※などを通じて、一定の頻度で解約機会を提供する仕組みを持つ。日本でも、海外の非上場BDCを組み入れた公募投信が大手証券会社などを通じて個人投資家に販売されてきた。

※BDC…事業開発会社(Business Development Company)。主に中堅・中小企業に融資や投資を行う米国の投資会社

この種の商品は、四半期ごとなどに一定の解約機会を設けている。平時には、それが投資家にとって安心感となる。しかし、保有資産は本質的に流動性の低い企業向けローンである。資産側はすぐには現金化できない一方で、投資家側には定期的な解約機会が与えられている。ここに構造的な緊張がある。

市場環境が安定している間は、この緊張は表面化しにくい。だが、信用懸念や評価額への不安が高まると、投資家は解約を急ぎやすくなる。上限を超える解約請求が集まれば、ファンドは定められた範囲でしか応じられない。結果として、先に解約した投資家ほど、相対的に有利な価格で資金を回収できる可能性が生じる。

筆者が繰り返し述べてきたのは、足元の問題の本質が信用力の悪化そのものではなく、非流動的な資産に一定の解約機会を付与しながら、それに見合うポートフォリオ設計や流動性設計が十分であったのかという点にある、ということである。今回の局面は、その構造的な弱点が表面化したものだと整理できる。