趣味と貯金の折り合い

「私も、言い方がよくなかった」

意を決して口を開くと、祐太が顔を上げる。

「貯金のことも、これからのお金のことも、ちゃんと考えたい。それは本音。でも、祐太を詰めるみたいな、きつい言い方になってたと思う」

「いや、俺が過剰に責められてるって思い込んでただけだから」

「でも、きつかったのは本当だから。ごめんね」

祐太は小さく首を振った。

「いいよ。謝ってくれてありがとう。正直、俺もちゃんと変わらないとだめだと思ってる」

その言葉を聞いて、晴香はようやく息をつけた気がした。2人の間に流れる空気はまだ少しぎこちなかったが、沈黙の重さはずいぶん和らいだ。

「まず、結婚式と新婚旅行の貯金は優先したい」

しばらくして晴香は家計アプリを開きながら言った。

「ここは、私の中では譲れない。2人で決めたことだから」

「そうだな。そこは俺もそう思う」

祐太は、しっかりとうなずいた。

「ただ、趣味に使うお金を全部だめって言いたいわけじゃないの。毎月、キャンプとか服とか、好きに使っていい額を決める。どうしてもそれを超えそうなら相談する。まずはそれでどう?」

「うん、いいと思う」

晴香はスマホを持ち、メモに打ち込んだ。

「趣味の買い物は月の予算内。高額なものは事前に相談」

「高額って、いくらからにする?」

「3万円以上は相談したいかな」

「3万円か」

祐太は少しだけ考え込んだ。その顔を見て、晴香の胸に小さな不安が戻る。やはり窮屈だと思われるだろうか。しかし、ここで曖昧にすれば彼は同じことを繰り返すだろう。

「祐太の買い物を全部管理したいわけじゃないよ。ただ、今は式も旅行もあるから」

「分かってる。3万円以上は相談する。で、買うってなった場合は、どこを調整するか2人で話す」

祐太が先にそう続けたので、晴香は少しだけ肩の力を抜いた。

「それなら、私も納得しやすいかも」

「あと、欲しいと思ったものは、すぐ買わないでリストに入れるよ」

祐太は自分のスマホを持ち上げ、メモアプリを開いた。

「例のラックも、そこに入れる。今すぐは買わない」

「本当に?」

「本当に。一旦リストに入れて、1週間後も欲しかったら買う」

「ちゃんと相談してからね」

「はい。勝手には決めません」

大げさにうなずいた祐太を見て、晴香は表情をゆるめた。祐太の金銭感覚が明日から急に変わるとは思っていない。ただ、ケンカをしても、こうして互いに妥協点を見つけられるのなら、2人でやっていけるのかもしれない。

「次は式場の見積もり、もう1回見直してみる?」

晴香がそう言うと、祐太が引き出しからファイルを取って戻ってきた。

「そうだな。旅行の候補も、予算に合わせて考え直そう」

テーブルの上には、式場のパンフレットと旅行会社の冊子が並んでいた。まだ決めなければならないことは多い。それでも、もう先ほどまでの重苦しさはなかった。ダイニングの照明が、向かい合う2人の手元をやわらかく照らしていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。