<前編のあらすじ>
晴香は恋人・祐太と結婚式や新婚旅行の計画を進めていたが、思っていた以上にお金がかかる現実に直面する。慎重に貯金を進める晴香に対し、祐太は「何とかなる」と楽観的で、金銭感覚の差が少しずつ気になり始めていた。
ある夜、祐太が高価なキャンプ用品を欲しがったことをきっかけに、晴香の不安は一気に噴き出す。祐太が本当に結婚資金を貯める気があるのか分からないと責め立ててしまい、ついには「30過ぎて貯金ゼロとかありえない」とまで言ってしまう。
翌朝から冷戦状態になった2人。晴香は自分の主張自体は間違っていないと思いながらも、祐太自身を否定するような言い方になってしまったのではないかと後悔し始めていた。
●前編【「30超えて貯金ゼロとかありえない」結婚前の金銭感覚に限界…恋人を責めた夜の結末】
冷戦3日目の話し合い
冷戦状態が続いて3日目の夜、リビングにはテレビの音だけが流れていた。
晴香はソファの端で式場から届いたメールを読み返していたが、内容はほとんど頭に入ってこなかった。ダイニングの椅子に座っていた祐太も、スマホを伏せたまま黙っている。
「晴香」
名前を呼ばれ、晴香は画面から顔を上げた。
「何?」
また明日の予定か、家事分担の確認だと思った。しかし祐太はしばらく言葉を探したあと、視線を落とした。
「この前のこと、悪かった」
思ってもいなかった台詞に、晴香は返事を忘れた。祐太は膝の上で指を組み、言いにくそうに息を吐く。
「どう考えても、俺が怒るところじゃなかった。晴香に正論言われて腹を立てたのは間違ってたと思う。ごめん」
「……うん」
そう短く返すのが精いっぱいだった。願ってもない状況のはずなのに、実際に面と向かって謝られると、どうしていいか分からない。祐太は少し迷ってから続けた。
「昨日さ、会社帰りにキャンプ仲間と会って、一緒にアウトドアショップに寄ったんだ。そいつ、新作のグリルに一目ぼれしたんだけどさ、買う前に奥さんに電話してたんだよ。写真とか値段とかも送って、買ってもいいかって」
晴香は黙って聞いた。
「俺がなんでか聞いたら、そいつ、『家族がいるから勝手には決められない』って当たり前の感じで言ってて。ああ、そういうことなんだ、俺は結婚がどういうことか、ちゃんと考えてなかったなって……」
祐太は伏せていたスマホに視線を向けた。
「俺、自分がほしいものをほしいって言って何が悪いんだって思ってた。でも晴香からしたら、また貯金しないで、勝手に買うんじゃないかって思うよな。今までそういうこと、何回もあったし」
そこまで自分で言うとは思わず、晴香は少し驚いた。仲直りのために仕方なく謝っているのではなく、祐太自身の中で何かが変わったのだと分かった。
「それで、帰ってから購入履歴を見てみたんだ」
「購入履歴?」
「うん。キャンプ用品だけじゃなくて、服とか小物とかの買い物の履歴。そしたら、本当に必要だったものもあるけど、気分で買ったもののほうが圧倒的に多かった」
そう言って祐太は苦笑いした。
「晴香に注意されたときは、そこまで言わなくてもいいだろって思った。でも見直したら、言われても仕方ないなって。俺、結局その場の勢いでお金使ってた」
晴香の中で張りつめていたものが、ゆっくりと緩んでいった。将来への不安が完全に消えたわけではない。それでも、彼が同じ方向を見ようとしてくれていることは伝わった。晴香は膝の上の手を握り直した。
