<前編のあらすじ>
彩子さんと道雄さんは実の姉弟。だが、姉弟の仲はあまりうまくいっていなかった。
両親の離婚というトラウマによるのか、大人しく引っ込み思案な姉の彩子さんに対して、弟・道雄さんは、押しが強くエゴイスト気質。
幼い頃から、姉のおもちゃやお菓子を横取りするような関係だった。
やがて二人は大人になったが、弟・道雄さんは、姉・彩子さんにつきまとい、相続放棄の誓約書に強引に署名押印させてしまう。
やがて母・江美子さんが亡くなると、「誓約書」の存在を盾に、弟は相続放棄を迫る……。
●前編:【「姉ちゃんは独身だし、相続は俺に譲ってよ」弟のゴリ押しで「相続放棄の誓約書」に署名した姉が見た地獄】
「弟が全部相続するっていう誓約書を書かされちゃった」
江美子さんが亡くなったその日のうちに、彩子さんから私に連絡があった。彩子さんとは、かれこれ10年ほど前から、同じ趣味の集まりで定期的に顔を合わせており、江美子さんの生前からそれなりに親交があった。当時受けた衝撃は今でもはっきりと思い出せる。
翌日は私も通夜に参列したが、その席で彩子さんとも少し話をした。
「相続、大変じゃないですかか?」
私が聞くと、彩子さんは「弟が全部相続するっていう誓約書を書かされちゃった」。
それを聞いた瞬間、私は彼女が何を言っているのか分からなかった。思わず「え、何の話ですか?」と、今思えば少々的外れな質問が口から漏れてしまった。
彩子さんは私の反応に面食らったようだ。とキョトンとした顔で返事をする。
「え? 相続の話ですよ?」
そこから何度もやり取りを交わし、私はようやく何が起きているのかを理解した。
「ああ……、それはね……」
私は一人の友人として、彩子さんに相続放棄について解説することになった。
