怒りとともに握ったスマホ
高校のころは、しょっちゅう「お小遣いが足りない」と言ってきたのに、最近はそれがぴたりとなくなっていたこと。バイトも始めたし、自分でやりくりするようになったのだと思い込んでいたが、実情は違ったらしい。
「はあ……」
郁美は督促状をテーブルに置き、スマホを手に取った。メッセージアプリを開き、短い文章を打ち込む。
「葉月、今日は何時ごろ帰れそう?」
既読がつくまでが妙に長く感じられた。
数分後に返ってきたのは、いつもどおり軽い調子の返信。
「バイトだから10時半くらいかな。ママ、ごはん先食べてて」
郁美は少し迷い、それから続けて送る。
「分かった。帰ったら話したいことがあるから、寄り道しないでね」
すぐに「え、なに?」「こわいんだけど」と連続で返ってくる。いつもなら、その葉月らしい反応を微笑ましく思うところだが、今は笑う気になれない。
「帰ってから話す。帰り気をつけてね」
それだけ返して、郁美はスマホを伏せ、ソファに身を投げ出した。
「ふう……」
あらためて考えると怒りが込み上げてくる。
なぜ勝手にカードを作ったのか、何にお金を使ったのか、どうして放っておいたのか。聞きたいことはいくらでもあった。
「……夕食の準備しないと」
窓の外では、午後の光がゆっくりと傾き始めていた。取り込んだ洗濯物の匂いが残る部屋の中で、テーブルの上の白い書類だけがひどく場違いに見える。郁美はそれをきちんと封筒にしまい、勢いをつけてソファから立ち上がった。
●専門学校に入った18歳の娘・葉月の成長を喜んでいたシングルマザーの郁美。しかし、片付けの最中に偶然、10万円を超えるクレジットカードの督促状を見つけてしまう。娘が黙ってカードを作り、支払いを滞らせていた事実を知った郁美は…… 後編【「踏み倒すつもりはない」督促状に青ざめ泣く娘に母が伝えた現実と突きつけた信用の重さ】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
