まだ薄暗く、東の空がほのかに青みを帯びるころ、靖子は目を覚ました。

靖子が起きるのは、毎朝決まって5時。藤田家に嫁いで20年近く、靖子は誰よりも早く起きて朝食の準備をしていた。

台所で目玉焼きと味噌汁を温め、背の低いテーブルに配膳し終えたあと、靖子は義母の誠子を起こしに寝室へ向かった。

嫁いで20年の憂鬱

扉をノックして名前を呼んでも返事がないので、靖子はひと言断わってからゆっくりと扉を開けた。すると横になっている誠子はすでに起きていて、鋭く尖った視線を向けてきた。

「やっと来たのか。こっちはもうとっくに起きてるんだ。最近ずっと寝坊してるだろう?」

「すいません」

靖子は条件反射で謝罪の言葉を口にした。寝坊はしてない。時間通りに起きているなんて反論はする気も起きなかった。

誠子は事あるごとに嫌なことを言ってくる。これは嫁いできてずっとだった。20年前と比べれば見た目は年相応に老いているし、足腰も弱くなった。けれどこのいびりだけはいつまでも元気がいいままだった。

誠子の寝室を出た靖子は次に夫の孝弘を起こし、3人で朝食を取った。

テレビの情報番組ではゴールデンウィーク特集をやっていて、観光のおすすめスポットを紹介していた。ゴールデンウィークが近づいていると分かっただけで靖子は心が重たくなった。

ゴールデンウィークには義姉家族や義弟家族が我が家にやってくるのが恒例だった。もちろん彼らをもてなすのは全て靖子の仕事だ。だが嫌なのはそれだけではなく、義姉たちが来ると誠子の威勢が増し、いびりがいつにも増して激しくなるのだ。

反論せずにただ苦笑するしかない自分はとても惨めだ。またあの苦渋を味わわないといけないのかと思うと気が滅入って仕方がなかった。