予定通りにいかない毎日
復帰して1週間ほど経つころには、美波の慌ただしい朝の支度はすっかりルーティン化していた。
連絡帳を書き、着替えを袋に入れ、おむつの枚数を確かめる。娘を保育園に送り、電車に飛び乗って会社へ向かう。しかし、全てが予定通りに進むわけではない。
その日も、出勤して2時間ほどでスマホが震えた。保育園からだった。
画面を見た瞬間、美波の肩がこわばる。
「柴田さん、お子さん?」
隣の佐伯が声をひそめる。
「うん。ちょっと出てくるね」
電話の向こうで、担任が申し訳なさそうに言った。
「少し熱が上がってきていて……今は37度8分です。食欲もあまりなくて」
「分かりました。迎えに行きます」
通話を切ると、無意識にため息が出た。
またか、と思う。
母に何度も聞かされていたことが、こうしてそのまま現実に起こるのが不思議でもあり、もどかしくもあった。
「お迎え?」
「熱だって。行ってきます」
「大丈夫です。こっちは気にしないでください」
上司も自席から顔を上げた。
「引き継ぎだけ送ってくれればいいよ。気をつけていってらっしゃい」
「すみません。お先に失礼します」
迎えに行くと、娘は先生に抱かれて少しぼんやりしていた。美波の顔を見るなり腕を伸ばし、抱き上げるとすぐ肩に頬を押しつけてくる。
「今日は、かなり頑張ってくれたんですよ」
先生がそう言ってくれる。
「ありがとうございます。すみません、また」
「いえいえ。最初のうちはみんなこんな感じですから」
帰宅後、娘を寝かせているうちに、美波もそのまま一緒に横になりたくなった。しかし、洗濯物もあるし、夕食の準備もある。
夕方、帰ってきた夫がスーツの上着を脱ぎながら言った。
「今日も呼び出し?」
「うん。熱が出ちゃって」
「次、俺が行こうか?」
「いや、いいよ。私のほうが融通利くし」
自分で口にすると、不思議と頭の中がすっきりした。思うように進まないことばかりでも、生活そのものは少しずつ形になっている。美波はキッチンに立って、2人分の夕食を盛りつけ始めた。
●育休を終え、慌ただしい日々の中で仕事と育児の両立に奮闘する美波。保育園の呼び出しに振り回されながらも、少しずつ生活のリズムをつかみ始めていた。しかし、復帰後の美波に衝撃の事実が突き付けられる…… 後編【「そんなことある?」育休ママの復帰後の暮らしに突き刺さったまさかの給与明細騒動】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
