ついに決着の時

木曜の夕方、佐奈は荷物がなくなった部屋の真ん中に立っていた。

約束の6時まで、あと少し。玄関の方を見るたびに、喉の奥が乾いた。

「緊張してんの?」

背後から山本に声をかけられ、佐奈は小さくうなずく。

「ちょっとね」

「小園が思ってるより全然余裕だと思うよ。正しいのはこっちだからね」

ほどなくしてインターホンが鳴り、佐奈の肩がわずかに強張った。玄関を開けると、北山が濃い色のジャケットを着て立っていた。佐奈の父親と同じくらいの世代で、一見すると穏やかで良識的な人物に見える。だからこそ、退去の立ち合いのときには、少しも警戒していなかったし、電話での攻撃的な対応が予想外だった。

「本日は、お時間いただいてすみません」

「いえ……こちらこそ。えっと、こちらは……」

「山本です。今日は小園さんに頼まれて同席しています」

山本が1歩前に出ると、北山はほんの一瞬だけ目を動かし、すぐに「そうですか」とだけ言った。その声音は、電話のときよりもずっと平坦だった。それから北山は床や壁を一通り見回し、部屋の隅に近づいた。

「こちら、家具跡がありますよね」

「ありますね」

山本は床にしゃがみ込み、北山が指摘した箇所に視線を落とした。

「ただ、割れや深いえぐれはないです。通常使用の範囲に見えます」

「でも、見栄えは悪いでしょう」

「見栄えと借主負担は別です。全面張替えを借主負担にするなら、それ相応の損傷が必要です」

穏やかで落ち着いた口調だった。北山は今度は壁のほうへ視線を移した。

「ここの壁紙もだいぶ汚れて、剥がれかけています」

「これも普通に生活していれば出る程度の汚れ……というか、これはおそらく日焼けですよね。剥がれかけているのだって、故意に人が剥がしたふうでもない。退去立ち合い後の追加請求なら、なおさら根拠ははっきりしていたほうがいいと思いますよ」

北山は返事をせず、しばらく黙ったまま床を見ていた。先日、あれほど高圧的に払うのは当然だと言い切っていた人と同一人物とは思えない。