経年劣化と通常損耗の違い
「やっぱりそうだよね」
「うん、そこはちゃんと分けて考える。経年劣化と通常損耗は別。借主の過失で壊したならともかく、長く住んでれば自然に付く傷もあるからね。何でもかんでも請求できるわけじゃない」
きっぱり言い切られると、それだけで視界が開けた気がする。昨日は北山の口調に押されて、自分の感覚が揺らいでいたのだと、佐奈はようやく気づいた。
「でね、昨日電話したときに、木曜6時に来るって決められて」
「それも、1人で対応する必要ない。俺、行くよ。当日」
「え、悪いよ。仕事もあるでしょ」
「6時なら調整すれば間に合う。不動産屋やってると、こういう系のトラブルにも慣れてるし。ここはプロに任せとけって」
山本はそう言って親指を立てて笑った。学生時代と変わらぬ彼の明るさに、佐奈はわずかに口元を緩めた。
「山本、ほんとありがとう」
「だからいいって。メール、あとで転送しといてな」
「うん、分かった」
それから佐奈は冷めたカフェラテを一口飲み、ようやくその味を感じた。
