1月の選挙で大勝した高市政権は、日本経済停滞の原因を人口動態ではなく投資不足と分析し、企業の貯蓄超過から投資超過への転換を軸とした経済再生戦略を推進している。「高圧経済」の実現と官民連携の成長投資により、設備投資サイクルを押し上げ、構造的なデフレ体質からの完全脱却を目指す高市政権の方向性について、クレディ・アグリコル証券でチーフエコノミストの会田卓司氏に語ってもらった。

※当記事は3月6日に開催した機関投資家向けセミナー「オルイン セミナー」内のセッション内容をもとに再構成したものです。

クレディ・アグリコル証券 チーフエコノミスト 会田卓司氏

高圧経済で需給ギャップを2%超に

高市政権の経済政策は、マクロ戦略を実現するための二つの戦術から構成されています。一つは「高圧経済」の実現により景気回復の実感を中小企業・地方まで広げること、もう一つはグローバルな経済政策の潮流転換に乗った「官民連携の成長投資」の推進です。

まずは、「高圧経済」についてです。企業貯蓄率と需給ギャップ(GDPギャップ)は密接な関係にあります。これまでの自民党政権では、需給ギャップがゼロになると「景気回復は十分」として経済政策を引き締めてきました。しかし、需給ギャップのゼロは単に経済のトレンドに現状が追いついただけに過ぎず、そのトレンド自体が弱いことが問題なのです。

需給ギャップがゼロの状態とは、日本経済全体の平均がゼロということになり、輸出セクター・大企業・東京がプラスに出ている一方で、内需セクター・中小企業・地方がマイナスに沈むことが予想されます。企業に国内支出・国内投資・賃金を増やしてもらうには、需給ギャップをプラスにまで押し上げ、内需セクターの回復を促し、中小企業・地方にまで景気回復の実感を届かせる必要があります。

この認識こそが、高市政権がもたらした革命的な変化です。高市政権は発足後初の経済対策で「需給ギャップはゼロ近傍となったが、景気はまだ十分に強くない。景気回復の実感はまだ中小企業・地方に広がっていない」と明示しました。需給ギャップをさらに上に持ち上げて高圧にしていく、これが「高圧経済」の考え方です。

データからは、需給ギャップが2を超えるくらいまで持ち上がると、景気回復が十分に強くなり、企業の国内支出が増えて企業貯蓄率がマイナスに戻ることがわかります。

 

需要減退ではなく投資拡大によるインフレ安定化

ただし、高圧経済という言葉が一人歩きし、「インフレがさらに悪化するのではないか」という批判もありました。しかし高市政権が考えているのは「ばらまき」ではなく「投資の拡大」です。

インフレを安定化させる方法は二つあります。一つは日本銀行に積極的な利上げをしてもらい、景気を悪化させ、需要を弱めることにより、インフレを安定化させる方法です。もう一つは投資を拡大し、供給能力を高めることにより、インフレを安定化させる方法です。

高市政権が目指すのは後者です。官民連携の成長投資によって投資を増やし、需給ギャップを2まで持ち上げていきます。投資は短期的には需要ですが、長期的には供給能力を生み出す力です。この投資需要によって需給ギャップを0から2まで持ち上げ、その過程で景気が良くなることで民間投資を誘発し、好循環を作っていこうという考え方です。

投資が増えれば資本蓄積が大幅に進んで潜在成長率が上がり、需給ギャップ自体も安定化します。さらに投資の増加により労働生産性が上昇し、実質所得の増加を通じて国民にも景気回復の果実が回っていきます。供給能力の回復こそが国力の回復なのです。