モデルの妥当性と最新の分析を反映

ただ、内閣府(ESRI)の短期マクロ経済モデルについては、以下の批判的視点も存在する。まず、現行モデルの基盤データが2020年までとなっており、ウクライナ情勢以降の「価格転嫁が容認されやすくなった社会情勢」を完全には反映していない懸念がある。

このため、2021年以降は感応度が変化している可能性があり、企業の価格設定行動(Pricing-to-market)の変化により、為替のパススルー(価格転嫁率)が従来よりも高まっている可能性は否定できない。

実際、令和7年度の年次経済報告(内閣府)によれば、近年にかけて為替レートの変動が川下の財物価により影響するようになっていると分析されている(図表3)。

ただ、仮に現在の経済環境において円安のインフレ波及効果が、モデル上の「0.2%」から2倍〜3倍(0.4%〜0.6%)に拡大していると仮定しても、結論は大きく揺らぐことはない。

40%の円安が進んだとしても、年間の押し上げ効果は0.4%〜0.6%程度に留まることになる。これは、現実に4年連続で前年比2.5%を超えているCPIの上昇幅と比較して、依然として支配的な要因とは言い難いウェイトといえよう。

 

結論

本分析によれば、円安による物価押し上げ効果は無視できないものの、その寄与度は年平均で0%台前半~0%台半ばの程度に過ぎないことがわかる。

現在のインフレの正体は、円安という為替要因以上に、エネルギー・資源価格の高騰や、世界的なサプライチェーンの再編等に伴う輸入物価そのものの上昇、あるいは国内の人件費上昇などを背景とした価格転嫁といった、より複合的な要因によって構成されていると結論付けられるといえよう。

つまり、円安はあくまで輸入物価上昇に伴う痛みを「増幅」させてきた一因に過ぎず、4年連続で2.5%を超えてきたインフレの主因と断じるのは不適当である。