さくらの本当の気持ち

2人の間に、味噌汁の湯気が立っている。夏美は娘の顔を見ないようにしながら、箸を取った。さくらは微動だにしない。「食べないの?」と声をかけようとしたそのとき、さくらが唐突に口を開いた。

「お母さん。私、大学院に進学したいの」

「……大学院?」

間の抜けた声が出る。箸を置いた夏美を見つめながら、さくらは続けた。

「心理学を、もっときちんと勉強したい。院に行って、将来はカウンセラーとして相談支援の仕事がしたいと思ってる」

カウンセラー。相談支援。聞き慣れない単語が、湯気の中で輪郭を持つ。

「急にそんなこと……就活は?」

さくらは立ち上がり、自分の部屋から紙の束を持ってきた。テーブルに置かれたのは参考書と、角の折れた過去問のコピー。ページの端には付箋がいくつも飛び出し、無数の書き込みで余白が埋まっている。

「これは……?」

「院試の勉強。一応、次の冬を目標にしてるから」

指で表紙を押さえたさくらの声が、少しだけ柔らかくなる。

「卒論がね……」

「うん」

「教授に、褒められたの。データの取り方と考察が丁寧だって。もう少し掘れば研究になるって」

夏美は思い出す。卒論の時期、さくらが夜遅くまで机に向かっていたこと。

「そのときから、進学を考えてたの?」

「うん。でも、相談支援の仕事は前から興味があったんだ」

さくらは言葉を選びながら続けた。

「困ってる人の話を聞いて、整理するのを手伝う仕事。私、それがやりたい」

夏美の中にあった、さくらの印象が崩れていく。娘の成長を思い知らされた気がした。

「もしかして留年の件は……」