久しぶりに訪れた実家の玄関

駅を出ると、空気が冷たかった。

望海は紙袋の持ち手を握り直し、実家の玄関までの道を歩く。疲れているわけではないのに、呼吸が乱れる。道端の街灯が点き始め、影が足元に落ちた。

表札を見上げてから、呼び鈴を押す。

「はーい」

足音が近づき、扉が開く。顔を出した母のさつきが、一瞬驚いたように目を見開いた。そのまま視線が望海の全身を移動する。

「連絡もしないで来るなんて。何かあったの」

「ごめん。急に、思いついたから」

「……まあ、上がりなさい」

そう言って、玄関の灯りをつける。望海は靴をそろえ、用意されていたスリッパに足を入れた。廊下の匂いは昔のままだ。

しかし母の背中は、ひと回り小さく見える。歩く速さも、わずかに落ちている気がした。

「ほんとびっくり。何も用意してないわよ」

そう言いながらも母はてきぱきと動き、急須と湯のみを出した。テーブルを拭き、菓子皿まで置く。

望海は居間の端に座り、膝の上で手を組む。どうにも落ち着かない。

「お母さん、これ……チョコ、持ってきた」

「チョコレート?」

おずおずと紙袋を差し出すと、母は箱を取り出し、ふたを開けた。中身を見た瞬間、ふっと口元が少し緩む。

彼女は昔から、感情を隠すのが苦手だ。

「もしかして手作り?」

「うん、久しぶりに作ってみた。下手だけど」

「あなた、昔から勢いで突っ走るからね」

母は指でチョコを1つつまみ、口に入れる。すぐには感想を言わない。湯のみを置き、もう1つ手に取った。

望海は、ついその手元を見てしまう。仕草は変わらないのに、皮膚には年齢がにじんでいる。

「昔も、こんなだったね。形がそろわなくて不機嫌になってた」

望海は小さく息を吐いた。

「何回やっても、うまくいかなくて。いつもお母さんに手伝ってもらってた」

「覚えてる。いつも火が強かった。あなたって、すぐ急ぐの」

「今回も、焦げかけたよ」

母は短く笑い、湯のみを望海の前に押しやった。

「あなたも飲みなさい。冷えてるでしょう」

「ありがとう」

熱いお茶が喉を通り、緊張が少しだけほどけた。母は箱の端を指でなぞり、視線を上げる。

「もう……帰ってこないかと思ってた」

「……どうして?」

しわが増えた顔を、望海は目をそらさずに見た。

「あれから、ずっと考えてたの。あなたが言ったこと……望海の幸せって何なのか……」

母はそこで言葉を切った。湯のみを持ち上げたまま、続きを探している。望海も、急かさず待つ。