個別株投資で「世の中の動き」は見えるのか?【レポート本編】

個別株をやってみたいと考える初心者の多くは、「株価の動きを通じて、世の中がどう動いているのかを知りたい」という知的好奇心を持っています。これに対する私の答えは、「半分は正解だが、半分は違う」というものです。

確かに、今であればAI(人工知能)が世界的に盛り上がっており、その中核を担う半導体メーカーのエヌビディア(NVIDIA)などは、莫大な利益を上げ、それに伴って株価も急騰しています。このように、経済の流れと企業の収益、そして株価が連動しているという点では、社会情勢を知ることは有効です。しかし、ここには初心者が見落としがちな恐ろしい落とし穴があります。

恐怖の「オーバーシュート」:なぜ良い会社なのに損をするのか?

株式投資において最も難しいのは、「どこまで上がるのか」という見極めです。世の中の流れとしてその事業が正しいものであっても、株価はしばしば「オーバーシュート(行き過ぎ)」を起こします

世間で「この会社はすごいぞ」と話題になった時、株価はすでに実力以上に跳ね上がっていることがほとんどです。ここで、一つの教訓的な事例を紹介しましょう。医療関係者のための情報サイトを運営するエムスリー(M3)という会社があります。

エムスリーは、いわば「医療界のYahoo!」とも呼べる素晴らしいビジネスモデルを持ち、コロナ禍ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の波に乗って株価が激しく上昇しました。市場の期待は最高潮に達しましたが、その後の5年間で株価はどうなったでしょうか。驚くべきことに、株価はひたすら右肩下がりを続け、ピーク時の5分の1程度にまで落ち込んでしまったのです,。

会社自体は依然として優良であり、世の中の流れにも乗っていました。しかし、「上がりすぎた時に買う」という行為がいかに悲惨な結果を招くか、この事例は雄弁に物語っています。

投資のプロと戦う過酷な「先取り」の世界

「世の中の流れを先取りすればいいのではないか」と考えるかもしれませんが、それは想像以上にハードな世界です。

株式市場には、巨額の資金を動かすファンドマネージャーなどのプロが、血眼になって情報を先取りしようと日々しのぎを削っています。その業界に精通した専門家たちよりも早く情報を仕入れ、投資を実行することがどれほど困難か、想像に難くないでしょう,。

初心者が取るべき戦略は、完全に先頭を行くことではありません。新しい製品が出た際にいち早く試す「アーリーアダプター」のような感覚で、トレンドが少し盛り上がり始めた段階で乗り、後から来る「レイトマジョリティ(遅れてきた大衆)」に売る、という時間差を意識することが一つの現実的な手法となります。

投資力は「総合格闘技」:多角的な情報収集と分析術

では、どのようにしてその「見極め」の力を磨けばいいのでしょうか。投資とは、あらゆる情報をひっくるめて「買いか売りか」の結論を出す総合格闘技のようなものです,。

調べるべきことは山ほどあります。

企業のホームページ:IR情報や事業内容の確認。
業界四季報:その業界全体の動向を把握する。
アナリストレポート:専門家がどのような視点で分析しているかを知る。
過去の実績:財務諸表を読み解き、過去にどのような浮沈があったかを確認する。
財務指標:PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった指標が、現在の株価をどう評価しているか。

これら全ての情報を主捨選択し、自分なりの結論を導き出すプロセスこそが、投資の醍醐味であり難しさでもあります。

初心者への真実の助言:「すぐ儲けようと思うな」

非常に厳しい言い方かもしれませんが、「最初からすぐに儲けようと思わないこと」が、実は成功への近道です。投資の世界に「必ずうまくいく甘い話」は存在しません。

高名な投資家であるテスタ氏も、「最初はみんな初心者であり、失敗を積み重ねるものだ」といった趣旨の発言をされています。失敗を乗り越え、何がうまくいき、何がいかなかったのかという経験を蓄積することでしか、熟練の域には達せません。まずは「失敗から学ぶ」という謙虚な姿勢を持つことが、長期的に生き残るために不可欠です。