各販売会社が公開するデータをもとに、編集部独自の分析で投資信託の売れ筋を考察する連載。今回は、常陽銀行のデータをもとに解説。

常陽銀行の投信売れ筋ランキング(販売件数)の2025年11月のトップは前月と同じ「日経225ノーロードオープン」(設定はアセットマネジメントOne)だった。第2位には前月は第3位だった「のむラップ・ファンド(普通型)」(野村アセットマネジメント)が上がり、第3位には前月第5位だった「のむラップ・ファンド(積極型)」が上がった。「インデックスファンドNASDAQ100」(アモーヴァ・アセットマネジメント)は4位をキープした。前月第2位だった「ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)」(ピクテ・ジャパン)は第6位に下がった。前月の第8位から第5位に順位を上げた「のむラップ・ファンド(普通型)年6%目標分配金受取型」(野村アセット)など、売れ筋トップ10の中に「のむラップ・ファンド」が3本ランクインし、3本ともに順位を上げた。

 

「のむラップ・ファンド」の人気上昇の背景は?

常陽銀行の売れ筋ランキングで順位を上げた「のむラップ・ファンド」は、富裕層向けに提供される「ラップ口座」をより簡便な形にして一般の投資家に広く活用できるようにしたファンドだ。株式だけでなく債券やリート(不動産投信)などにも幅広く投資するバランス型運用を行い、過度な投資リスクを負わないように資産配分比率を市場の環境に応じて変更するところに特徴がある。株式ファンドではなく、バランス型の「のむラップ・ファンド」が人気化した背景には、市場の先行きに対する慎重な姿勢がうかがえるが、中でも「のむラップ・ファンド」に人気が集中した背景を考えてみたい。

そもそも「ラップ口座」は、資産家(投資家)に代わってプロの運用者が運用を請け負って、投資家が目標とする運用成果に応じたリターンを提供することをめざす投資一任契約の口座だ。投資成果は確約されたものではないが、事前に過去の運用成果については情報が提供され、投資家が契約の前に運用の実力について評価できる。資産運用についてはプロに任せることで、投資家は運用状況の確認や投資対象の変更などの資産管理業務から解放されるというメリットがある。

「のむラップ・ファンド」は、投資スタイルや投資目的に合わせたコースを選ぶことで、「ラップ口座」に似た効果を得られる投資信託だ。「ラップ口座」の場合は、個々人のリスク許容度や投資目的に応じて株式や債券などの投資対象資産を組み替えることで、テーラーメイド型の運用ポートフォリオを作って運用するが、「のむラップ・ファンド」の場合は、あらかじめ5つのファンド(「保守型」「やや保守型」「普通型」「やや積極型」「積極型」)を設定し、投資家は自らのリスク許容度や投資目的を考えた上で自身にふさわしいと感じるファンドを選ぶことになる。「ラップ口座」が投資家のニーズに合わせてプロがポートフォリオを作ってくれることに対し、「のむラップ・ファンド」はプロが作ったポートフォリオを投資家が選ぶという違いがある。

このようなプロに運用を任せるタイプのファンドが人気を集める背景には、国内のインフレ経済の定着によって、これまで資産運用とは縁がなかった人たちも、「物価上昇から資産価値を守る必要がある」という思いに突き動かされるようになってきたことがあると考えられる。株式のような価格変動リスクが大きなファンドではなく、より安定的な運用をめざすバランス型が選ばれているのも、プロの投資判断が選ばれているのも、「インフレに負けない資産を作りたい」という投資家の思いが強いためと考えられる。