上記はチームスピリットが開示しているデータを基にわれわれが独自に行った業績予想である。

われわれの業績予想モデルでは、ストック売上とフロー売上に分離して算出する。ストック売上はライセンス売上とプレミアムサポート売上から構成される。このうち主軸となるライセンス売上については、「エンタープライズ」「ミッド」「スモール」という3つの顧客セグメントごとに過去の推移や実績を基にして将来のARPU(1契約あたりの月間平均収入)とライセンス数をそれぞれ推定する。次にセグメントごとに推定したARPUとライセンス数を掛け合わせて個別のMRR(月間経常収益)を算出し、それらを合計した上で四半期ごとの売上を概算する。同じくストック売上であるプレミアムサポート売上は、過去の実績から数値を設定している。一方、フロー売上はスポットサービス売上とその他売上に分類される。これらは新規の大型案件受注などに伴い都度発生するため、過去の計上実績や進行中の商談パイプラインを基に四半期ごとにその規模を予測している。

ライセンス数は引き続きエンタープライズ領域が最も重要な成長ドライバーである。過去のトレンドとして、エンタープライズのライセンス数は高い成長を維持しており、ANAホールディングスのような大口取引先の獲得実績や、SAPおよびデロイトトーマツコンサルティングといった強力なパートナーとの協業が本格化していることから、今後も高いライセンス獲得ペースが続くと想定される。ミッド・スモール領域も安定した成長を見込んでいる。

ARPUについては、特にエンタープライズ領域で短中期的に低下傾向にあると見られるが、これは意図的な戦略に基づいている。エンタープライズ企業は導入サービスの選定を慎重に行うため、一度導入するとチャーンレート(解約率)がミッド・スモールに比べて低いという特性がある。そのため初期のARPUが低くとも、顧客として長期間囲い込むことで顧客生涯価値(LTV)を最大化し、十分な採算を確保することが可能である。加えてエンタープライズ企業は人事・財務など部門ごとに意思決定が分散しているため、ミッド・スモール企業と比較してクロスセルがしにくい傾向にあることもARPUが相対的に低くなる一因である。将来的にはマルチプロダクト戦略の推進や価格改定によりARPUを向上させる方針だが、短期的にはライセンス数の最大化を優先するため、ARPUの減少圧力と高いライセンス数増加を相殺しながらARRを成長させていく計画である。

利益面では、収益性が大幅に改善する見通しである。その最大の要因が2023年11月にCEOへ就任した道下和良氏や新たな執行役員の参画によるパートナーアライアンス活動の拡大である 。道下氏は日本オラクルやセールスフォース・ジャパンでエンタープライズ事業の要職を歴任している。就任以前は新規顧客商談全体に占めるアライアンス経由の比率は7%程度であったが、2024年度には21%、2025年度は第3四半期時点で50%にまで急増しており、エンタープライズ領域に絞ると2024年度には48%だった比率が2025年度第3四半期時点では63%に達している。これは強固な信頼関係の構築が求められるエンタープライズ顧客の開拓がアライアンス経由で加速していることを明確に示しており、この戦略的シフトによりエンタープライズ顧客の開拓に加え、自社での広告宣伝費を大幅に圧縮することが可能となった 。加えてシンガポール子会社の事業縮小により年間2億~3億円規模のコスト削減効果が見込まれる。

ただチームスピリットは、今期第4四半期において年間利益目標の達成が見えた段階で、来期以降の成長に向けた戦略的投資を強化し、損益はトントンとなる見込みだと発表している。Synclogやチムスピ ピープルアナリティクスといった新製品をリリースしており、特にSynclogは既存顧客へのクロスセルを通じてARPU向上に貢献し、新たな成長ドライバーとなることが期待される。

以上の予想と会社予想との比較を以下に示す。

 

われわれの予想では2025年8月期の予想は売上高、営業利益ともに会社予想と同水準となった。

チームスピリットの今後の成長ドライバーとなるのは、エンタープライズ顧客の拡大であり、その中核を製品レベルと製品導入レベルという2層構造のアライアンス戦略が成している。

製品レベルのアライアンスでは、米ワークデイとの協業が象徴的である。ワークデイは人事・財務管理を統合的に提供する時価総額600億ドル超の米SaaS大手であり、同社の提供するエンタープライズマネジメントクラウドに対し、チームスピリットが日本の複雑な労働法規に対応する勤怠管理モジュールとして組み込まれる形となる。これにより、ワークデイの強力なプラットフォームを通じて、グローバルで事業展開するエンタープライズ顧客への導入拡大を目指す。

製品導入レベルのアライアンスでは、ITコンサルティングファームとの連携を強化している。大企業のシステム選定は、デロイトトーマツコンサルティングのような外部コンサルタントの助言が意思決定に大きな影響を与える。彼らと公式に協業することで、数ある選択肢の中からチームスピリットの製品が採用される優先度を高めることが可能となる。デロイトトーマツコンサルティングの他にも複数の大手ITコンサルと良好な関係を構築しており、エンタープライズ顧客の囲い込み体制を強化している。この体制において、実際の導入プロジェクトは少数のチームスピリットのマネジャーとパートナーである複数人のITコンサルタントによって遂行され、この際に発生するコンサルティング費用は売上原価・その他に計上される。

なお本稿は同社の将来性を分析・解説するものであり、特定の株式の購入を推奨するなどの投資推奨にはあたらない。

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