<前編のあらすじ>
70歳を過ぎても働き続ける輝幸さん(仮名)は、年金受給の手続きに全く関心がありませんでした。「年金? まだ必要ないし、なーんにも手続きしてないよ」と、妻の顕子さん(仮名・72歳)から助言されても耳を貸しません。
ところが、仕事への情熱が災いして体を壊し入院。退院後、体力の限界を感じた輝幸さんは71歳で会社を退職することを決めます。そこから、これまで気にも留めていなかった年金が、突然、生活の柱として意識されるようになりました。年金の仕組みが分からない輝幸さんは、年金事務所へ相談に行くことを決意します。
●前編:「まだ必要ないし」年金に興味ゼロ・手続きも一切なしだったが…70代会社員男性の価値観を変えた「予想外の出来事」
繰下げをする? それとも5年遡る?
65歳から受給できる老齢基礎年金や老齢厚生年金は、65歳から受給せず、受給開始時期を遅らせ、増額させる繰下げ制度があります。1カ月遅らせるごとに0.7%増額させることができ、2022年4月より最大75歳まで・84%増額(0.7%×120カ月)可能となっています。輝幸さんは現時点で71歳0カ月。71歳0カ月でも繰下げ受給を開始することができ、この場合、6年(72カ月)の繰下げとなりますので、50.4%(0.7%×72カ月)の増額での受給となります。
しかし、繰下げ受給を考えて繰下げ待機をしていた人、受け取りを保留していた人など年金の請求をしていなかった人が、繰下げをせず、65歳に遡って増額なしで受け取る方法もあります。つまり、繰下げをしない選択肢となります。例えば、もし、68歳まで繰下げ待機していた人(年金は未請求だった人)が遡る場合は3年遡り、65歳開始(繰下げ増額なし)の額で過去3年分を一括受給し、68歳以降の年金も増額なしで受給することになります。このように、未請求だった人は後から65歳開始と同様の扱いでの手続きができるようにもなっています。
ただし、先述のように年金には5年の時効がありますので、70歳を過ぎてから遡る場合は特例が適用され、その5年前に繰下げをしたものとみなされます。これが特例的繰下げみなし増額制度となります。70歳は既に過ぎ、71歳0カ月となる輝幸さんの場合、その5年前となると66歳0カ月。遡った場合は66歳0カ月繰下げ(8.4%増額)扱いとなり、過去の5年分の8.4%(0.7%×12カ月)増額された年金を一括で受け取り、今後71歳以降も8.4%増額された年金で受給し続けることになります。