②脱ドル化トレンド加速の可能性
世界が保護主義や重商主義に傾けば、市場センチメントは金準備の国内回帰に有利に働くでしょう。これは2022年から2024年にかけての公的部門による記録的な金購入の背景にあるものです。価格変動に最も影響されにくい買い手、すなわち政府からの需要がさらに拡大する可能性があることが、投資家の金購入のインセンティブとなっている可能性があります。たとえば、中央銀行が金の年間生産量の35~40%を購入した場合(2022~2024年は25~30%)、他の需要源を満たしつつ金のリサイクルを進めるために金価格の大幅な上昇が必要となることでしょう。
4月の相場暴落で特筆すべきは、それが米国株式市場だけにとどまらなかったことです。米ドルが売られるなか米国債利回りはイールドカーブの中間部分そして特に長期部分で急上昇しています。少なくともきわめて短期的には、米国債は投資家にポートフォリオ・プロテクションを提供できていません。金はドル安により他通貨建てで割安感が出たことでも恩恵を受けています。これが米国の金融優位性やドルの準備通貨としてのステータスへの信認危機を示しているのかは誰にもわかりません。しかし、ウォール街でそうした疑問が出ている点は懸念すべきでしょう。そしてそれが続くなら、懸念は構造的に金に有利に働く可能性もあります。海外勢による売りが原因かどうかは四半期後半に、米財務省のTICレポートで4月の海外投資家の米国債保有額が発表されれば明らかになるでしょう。とはいえ、世界的な貿易摩擦の激化、そして米中二国間の地理経済的対立は、交渉が成立しても金需要に影響を与え続けそうです。特にグローバル化に向けた米国の政策やドルの準備通貨としてのステータス維持への「信頼」が失われた場合はなおさらです。