「全く違う価値観に触れ、自分の価値観をぶっ壊し客観視する」

新卒入社時のTOEICの点数が380点だった私は、英語コンプレックスと海外で働きたいという思いからまず語学留学をしてみようと考えました。会社に許してもらうことができなかったので、退職して3カ月間、ニューヨークの語学学校へ行きましたが、この3カ月がなかったら、今の私はありません。現在では、英語で仕事ができるようになり、世界の最新情報にアクセスできるようになり、世界のさまざまなコミュニティに所属できるようになり、世界中に友人や仕事仲間ができました。一番大きな財産は、

「日本での働き方が標準なわけではない」

という客観的な比較ができ、選択肢を持てたことです。中高年の短期語学留学の最大の目的は、

「全く違う価値観に触れ、自分の価値観をぶっ壊し客観視する」

ことです。

これを留学業界では「リセット留学」と呼びます。自分の今までの人生を一度リセットするために語学留学をするのです。行けばわかりますが、今まで築いてきたことがほとんど通じない、放っておくと誰も相手にしてくれない、そういった環境でプライドを捨てて自らつかみ取る習慣がつきます。また、失敗を許容しない完璧主義すぎる日本の価値観の中で生活することが苦しい方には、目から鱗が落ちる経験ができると思います。

短期間海外留学をすると、新たな自分の価値に気づくことができます。言うまでもなく、再認識できるのは、日本人は全世界的に見ても、相対的にとても優秀だということです。OECDが実施している「国際成人力調査(PIAAC、ピアック)」では、「読解力」「数的思考力」において日本は世界1位となっています。年齢別のデータで見ても、日本の中高年のスコアは他のOECD諸国と比較しても圧倒的に高いという結果を示しています。

狭い日本の職場の中だけの価値観で、自分自身を評価してしまうのはとてももったいないことです。自分の活躍できる舞台がたくさんあることを海外に出ると気づかせてもらうことができます。

一番の課題は、ほとんどの方が「家族や仕事から離れて、90日間の語学留学なんて無理」と決めつけていることではないでしょうか。多くの場合、真剣に方法を考えずに、「家族に反対されるに決まっている」「上司は許してくれない」と思い込んでしまっているのではないかと思います。周囲の気持ちに忖度して決めつけるのではなく、実際に、家族、会社と交渉してみる価値はあります。例えば、正式に3カ月間休職したいと申請し、どうなるか試してみてはいかがでしょうか。

2023年12月の日本経済新聞で、長期の有給休暇(サバティカル休暇)を活用した留学や資格取得に取り組む企業や従業員の事例について特集されていました。働き方改革の浸透とともに、少しずつ働き方の自由度にも変化が現れています。

3カ月間の語学留学を経れば、自分にできることが増えているとすぐに気づけるはずです。例えば、職場復帰した際に、英語を活用して海外のベンチマークとなる企業のリサーチをするといったことです。交渉の窓口など、より英語力が問われる業務までできるかは、個人差が出るところではありますが、少なくとも簡単な会話レベルはできるようになっていると思います。残念ながら、職場で活かせる機会がすぐ得られない場合、就業時間外の帰宅後や週末に副業やボランティアで英語を活用することも可能です。

訪日インバウンド対応などは、本当にギリギリの状態で最低限レベルのサービス提供に留まっているところがほとんどないのではないかと思います。全国各地に出張へ行くと、外国語対応がきちんとできているところは本当に少ないですから、そのような業種に注目すれば、語学留学によって定年後の選択肢を増やすことができそうです。

周囲が内向きになっているからこその逆張りです。グローバルスキルの希少性は高くなり、身につければ活躍できる舞台が全世界に広がるのです。定年後の新たなキャリアを視野にいれて、3カ月間の語学留学に取り組んでみてはいかがでしょうか。

●第2回は【オンライン会議「設定は周りの人にお任せ」は危険…デジタルツールを使えない中高年に待つ“悲惨な事態”】です。(12月16日に配信予定)

中高年リスキリング

 


著者名 後藤 宗明

発行 朝日新聞出版

価格 990円(税込)