――日本の市場改革が進み、株価もバブル期の水準まで回復しました。日本株ファンドをどのように展開しますか。

資産運用立国を実現するために、われわれはマザーマーケットである日本市場を強化するという使命を負っています。国内市場の変革と成長を運用会社の立場からしっかり後押しし、投資先企業の成長とそれによる国富の増大という好循環につなげてまいります。そのためには、魅力的な日本株アクティブファンド、すなわち日本の成長企業を選別して投資するファンドを積極的に展開していく方針です。アセットマネジメントOneの日本株の運用体制は、規模やクオリティの面で国内随一であると自負しており、この強みを生かして日本株ファンドを改めてしっかり世に出します。

国内の投信市場ではオール・カントリーやS&P500に連動するインデックスファンドが人気です。それ自体は「貯蓄から資産形成へ」のはじめの一歩としては問題ないと思いますが、やはり日本市場がしっかり成長していくことを抜きにして資産運用立国は実現しないでしょう。投資家のお金が日本市場に回っていく好循環を生み出すための大きなツールとなるのが、日本株のアクティブファンドです。

われわれが提供する既存のファンドでも「One国内株オープン(通称:自由演技)」や「DIAM割安日本株ファンド」、「新光日本インカム株式ファンド」などは長期にわたって良好なパフォーマンスを誇っています。これらの商品のなかには、販売会社のラインアップの中には含まれているものの、おすすめ商品として位置づけられていないファンドもあります。われわれのファンドマネジャーが運用哲学をじかに伝えるなど、販売会社に共感していただける機会を増やしていきます。

旗艦ファンドの育成も新たに進めます。米国の運用会社では一般的にその社の看板商品となる大型株の旗艦ファンドを擁しています。残念ながら日本にはそのような大型成長株ファンドが見当たりません。われわれは2024年中に、将来の旗艦商品となるようなファンドを立ち上げます。実現すれば、当社としても初の大型株メインの日本株公募投信向けのファンドとなります。

新たに立ち上げるファンドは、大型株を中心に長期的に成長の見込める優良企業に対して集中的に投資します。業界内で高い優位性を持ち、長期的な利益成長の実現可能性が高い銘柄を発掘していきます。 投資対象とする資産は国内株式の全上場銘柄で、組み入れ銘柄数は50銘柄ほどを想定しています。長期的な成長性が国内のみならず海外でも評価される国際的な優良企業であり、かつ、日本を代表する優良銘柄として海外投資からも評価に値する企業を対象とします。

まずはシード投資でトラックレコードを蓄積し、将来的には海外投資家や国内公募投信として、国内個人投資家のお客さまにご愛顧いただけるようなファンドを目指します。市場でも「日本株といえば、このファンドだ」とイメージしてもらえるような存在感を示すためにも、運用資産額で5000億円規模を目標に掲げています。さまざまなお客さまから高く評価され、国内外の投資家の長期的な日本株投資先として貢献していきたいと思っております。

――アクティブ運用の前提となるエンゲージメント(対話)方針を教えてください。

ファンドのパフォーマンスを長期的かつ継続的に上げていくためには、しっかりしたリサーチ部隊が必要です。当社は今年4月に「リサーチ・エンゲージメントグループ」という組織を設けました。従来はセクターアナリスト、ESGアナリスト、マーケットアナリストが別の組織に属していましたが、その機能を集約して40人強ほどの新組織を発足させました。これも国内運用会社のリサーチ部門としては最大規模です。

「リサーチ・エンゲージメントグループ」が担う役割は大きく2つあります。

1つは日本株アクティブファンドの投資対象となるような企業をしっかり選定することです。もうひとつは、投資先として選んだ企業に対するエンゲージメントです。われわれは投資先企業が長期的に成長すると総合的に判断した上で投資するわけですが、その後も同時並行で企業の変革に向けた取り組みも支援していきます。企業に伴走しながら、時として議決権行使などを通じて取り組みを加速させることが当社の使命です。今年の4月には議決権行使のガイドラインを厳格化しました。ROEや政策保有株の基準などをベースに、企業との対話を深化させたいと考えています。特に企業価値向上に直結する資本効率をテーマとした対話を増やしていきます。

当社のエンゲージメント件数は年間およそ2000件で、そのうち資本効率や財務改革をテーマとするエンゲージメントが200件ほどです。新しいリサーチ・エンゲージメントグループが中心となり、資本効率に関するエンゲージメントを質量の両面で増やしてまいります。

その一方で、当社は近年、議決権行使の基準を毎年厳しくしてきましたが、短期的な視点に基づく厳格化だけでは十分でないという認識も持っています。確かに自社株買いを増やしたり遊休不動産を売却したりすれば、直ちに資本効率が高まります。しかし、重要なのは「その次に何をするか」です。もう少し中長期の目線で、具体的には2030年までに達成が望まれる事項のビジョンについて、今秋9月にも我々として方向感を提示して発信します。単年度で達成したか否かではなく、中長期の時間軸で取り組みが進捗しているかどうかを確認しながら進めていくことで、エンゲージメントの実効性を高めていきます。対話の相手も社長、CFOなどの経営トップや社外取締役まで広げていくことも我々の課題です。