広島銀行の預り資産業務が、大きな転機を迎えている。高い販売力でも知られてきた同行だが、2023年度には業績評価制度を変更し、いわゆるノルマを廃止。今年度からは営業体制も抜本的に見直し、預り資産業務の専担者をエリアの幹事店と呼ばれる大型店舗に集約させた。さらに今年1月にはネット証券や保険会社と連携して金融商品仲介業務、保険代理店業務を行うひろぎんライフパートナーズを設立し、7月から営業を開始したことも大きなトピックと言っていいだろう。

広島銀行 営業企画部 個人企画室 担当課長 新井 謙一氏

 

商品数を大幅に絞り込み 目線と提案の流れを統一する

そうした改革の鍵を握る存在の1人が、営業企画部 個人企画室の新井謙一氏。「現職に就いてから今年度で3年目となりますが、この間には重要情報シートが導入されたり、取扱商品を半数近くにまで絞り込んだり、さらには新NISAもスタートするなど目まぐるしい変化を遂げてきた時期でもありました」と振り返る。「私自身、かつては販売現場にいましたが、当時から投信販売の在り方を変えなければならないという問題意識を持っていました。その時々の旬のテーマを扱った商品を販売し、相場の上下に一喜一憂するような手法には、限界を感じていたのです」

新井氏が預り資産業務の担当になったタイミングは、ちょうど「顧客本位の業務運営」が問われていた時期とも重なり、まず手掛けたことの1つが前述の商品ラインアップの絞り込みだった。「2023年度のスタート時から、インデックスファンドとバランス型ファンドを中心とする7商品を『ベーシックファンド』と名付け、最初に提案すべきコア商品に位置づけたのです」と新井氏は説明する。

テーマ型ファンドなどは銀行窓口では積極的に扱わず、どうしても購入したいという顧客はグループのひろぎん証券を紹介するか、ネットチャネルに誘導する。現状では、窓口での販売の6割ほどをベーシックファンドが占めるまでに定着したという。

「旬のテーマを捉えたはやりの商品よりも、まずは投資対象が分かりやすく、長期分散投資に資する商品で資産運用を始めてもらい、バランス型ファンド、あるいはインデックスの組み合わせでポートフォリオを組むことの大切さを知ってもらう。販売現場全体が同じ目線を持ち、提案の流れも統一するようにしたわけです。特に最近は外国株式ファンドさえ買っておけばいいという風潮もありますが、銀行のお客さまは資産を“大きく増やしたい”ニーズより、”守りたい“ニーズの方が圧倒的に多いと思っています。長い目で見れば調整局面も訪れるでしょうから、いずれポートフォリオを組むことのメリットをご理解いただけるはず。今が踏ん張り時だと考えています」(新井氏)。

背景にはひろぎん証券とのすみ分けもあり、裾野を広げるのが銀行本体の役割で、相場に応じた積極的な取引をしたい顧客は証券という形で整理した。加えて、保険はもちろん、近年は相続にも力を入れるなど商品が多様化し、販売現場の負荷が高まっていた点も背景の1つ。いわゆる優績者のスキルは属人的なものである場合が多く、担当者によって話す内容が異なる弊害もあったが、商品を絞り込んで提案のスタイルを標準化することで、その解決を図った面もあったという。