「新NISAのスタートは快調」といえる数値が

これは、いよいよインフレを意識した動きが出てきた可能性があることを示唆しています。デフレ経済の下では、相対的にお金の価値が高まるため、現金や、低金利の預金に資産を置いていても特に問題は生じませんが、インフレ経済では現金のまま保有していると、着実にお金の価値は目減りしていきます。それに気付いたことで現金から、インフレリスクヘッジが期待できる他の金融商品に、資金が移動したと考えられます。

また預金の中で見ると、定期性預金から資金が流出し続ける一方、流動性預金は過去最高の残高になっていることが分かります。流動性預金の残高は、2023年12月末が過去最高の651兆7099億円でした。

ちなみにアベノミクスによって超低金利政策が取られるようになった2012年12月から2024年3月までの増減率を計算すると、流動性預金は96.46%増であるのに対し、定期性預金は23.19%減となっています。これは、超低金利政策によって流動性預金と定期性預金の金利差がほぼなくなったことから、いつでもATMから現金を引き出せる、流動性預金の利便性を重視する動きが強まったためです。

一方、株式等や投資信託といったリスク性資産の残高はどうなったのかというと、いずれも2023年12月末から2024年3月末にかけて、2ケタの伸び率を示しています。

ただし、これらについて注意しなければならないのは、残高を時価評価した額で計算されているため、この間の株価上昇による評価益も含めて残高が計算されていることです。

日経平均株価は、2023年12月末から2024年3月末の間に20.6%上昇しました。そうであるにも関わらず、この間の株式等の増加率は15.04%ですから、恐らく株式の増加率の大部分は、株価の値上がり益で占められたものと考えられます。

もう少し、正確な数字を見たい場合は、資金循環統計の「調整表」を参考にします。調整表に掲載されている調整額は、株式や投資信託のような価格変動商品の価格変動に伴う増減額を推計したものです。ちなみに株式の調整額は、2024年第1四半期が42兆1299億円となっています。そして、2023年第4四半期から2024年第1四半期までの株式等の増加額は40兆9269億円ですから、この増加額を超える額が、値上がり益によるものと考えられます。

つまり、株式市場にはそれほど個人資金が流入していないことになります。

では、投資信託はどうでしょうか。

家計部門が保有している投資信託の、2024年第1四半期の調整額は、9兆3628億円でした。家計部門の投資信託保有額は、2023年第4四半期から12兆8336億円の増加ですから、差し引きで3兆4708億円が真水で流入した金額であると考えられます。

これらの数字を見ると、同じリスク性商品であるにも関わらず、株式にはまだそれほど資金が流入していませんが、投資信託には順調に資金が流入していると考えることができます。これは、やはり2024年1月からスタートした新NISAの影響と考えても良さそうです。

金融庁がNISAの制度を恒久化し、非課税期間を無期限化し、さらに非課税額を1800万円まで拡大したのは、まだ投資をしたことのない個人が、NISAを活用して、投資信託を少額ずつでも積み立てることによって、長期的な資産形成に励んでもらいたいという狙いがあったからです。

まだ新NISAがスタートして3カ月間しか経過していない時点での数字なので、この傾向が定着するかどうかは正直、何とも言えませんが、時間の経過と共に公表される資金循環統計の数字は、注目しておきたいところです。