日経平均が4万円を超える――。
ほんの数年前には、この状況を想像するのは難しかったものの、人気エコノミストのエミン・ユルマズ氏は、地政学的観点から一貫して日本経済の復活とインフレの到来を主張していました。
そして、今は「米中新冷戦」の真っただ中。そんな世界情勢のなかで、日本に訪れるリスクとチャンスはどのようなものなのか、書籍『エブリシング・バブル 終わりと始まり』よりお届けします。(全2回の2回目)
●第1回:もし台湾有事が起これば「物凄いインフレが襲ってくる」…日本が抱える地政学上のリスク
※本稿は、エミン・ユルマズ『エブリシング・バブル 終わりと始まり 地政学とマネーの未来2024-2025』(プレジデント社)の一部を抜粋・再編集したものです。
ヒト、モノ、カネが流入する日本
日本に流れ込んでくるのはお金だけではない。人材も同様だ。
日本経済が1980年代のバブル経済に向かっていく中で、日本について学びたいという海外人材が大勢いた。金融業界でも、多くの外資系金融機関が日本支店を設け、日本企業の分析を行った。
ところがバブル経済が崩壊してからは、「ジャパン・パッシング」といわれるようになり、優秀な人材が日本から他のアジア地域に移っていった。とりわけ中国は1990年代から2000年代にかけて急成長したため、多くの優秀な人材が、新しいビジネスチャンスを求めて中国に向かった。
では、今後はどうなるのだろうか。中国は今、経済的にかなり厳しい状況に立たされている。バブル崩壊が進行するだけでなく、とくに欧米や日本の企業で働いている人材を、スパイ容疑で次々逮捕したりもしている。
こういう状況になると、さすがに中国で働き続けることがリスクになってくる。少なくとも欧米や日本の優秀な人材は中国に行かなくなるだろうし、それ以外の国で中国に行っていた人材も、中国を避けるようになるだろう。そうした人々の目指す先が、日本になったとしても何ら不思議はない。
なにしろ日本には、文学や美術、アニメーションに代表される大衆文化のようなソフトパワーが豊富にある。
実際に生活するうえで、まだ少し不便なところはあるが、それでも私が日本に来た30年くらい前に比べると、格段に住みやすくなった。かつては日本語がわからないと、さまざまな制約が生じたが、今は区役所などの行政施設でも丁寧に英語で応対してくれるし、英語で日本に関する情報発信をしているユーチューバーやインスタグラマーも大勢いる。
それだけ日本に対する関心が高まっている証拠ともいえるが、やはりインターネット社会になり、さまざまなSNSで個人が情報発信しやすくなったことの影響は、非常に大きい。SNSを通じて発信されている内容も、実際に日本で生活するうえで必要な情報が満載だ。それこそ「この手続きをしたい時は、区役所のこの窓口に行こう」とか、「こんなお店があります」「これをしたい時にはこうすればいい」といったアドバイスが、事細かに説明されているのだ。
加えて、この20年、30年でテクノロジーが大きく進歩したことによって、簡単に外国語を日本語に変換してくれるアプリもたくさんリリースされている。
こうした環境変化によって、優秀な外国人が日本に来やすくなっているのは事実だろう。その証拠に、日本政府観光局が取りまとめている「訪日外客数」の推移を見ると、人数が大幅に増えていることを確認できる。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、海外との人の行き来が制限される直前である2020年1月が、月間で266万1022人だった。それが2020年5月には1663人まで激減。そこから徐々に増えていき、確定した数字が取れている2023年10月は251万6623人だった。そして、この原稿を書いている段階ではまだ推計値だが、2024年3月の訪日外客数は308万1600人で、単月として過去最高を更新するとともに、初めて300万人を突破した。
近年、「人的資本」といった言葉が広まっているが、日本が好きな、優秀な人材が諸外国から集まり、日本で活躍してくれれば、今度はその優秀な人たちが持っている世界中の優秀な人材とのコネクションもできてくる。そして優秀な人材が集まれば、日本に対する諸外国の関心が高まり、日本に投資する動きも広がってくる。
日本の周辺で大きな有事さえ起こらなければ、こうしたメリットが十分に期待できるのだ。