ここ数年、投資界隈は半導体銘柄が大きな話題となっています。

2024年6月、半導体大手エヌビディアはアップル、マイクロソフトを抜いて、時価総額世界トップに躍り出ました。生成AI「チャットGPT」が公開されたのは2022年。この短期間に、AIに使われる先端半導体を開発するエヌビディアの株価は約8倍になりました。

日本の半導体関連銘柄であるレーザーテック、東京エレクトロンも日本株をけん引する存在として、話題を振りまいています。次々と国内で新たな半導体工場の建設が進むなか、日本経済の復活のカギを握るのは半導体と言っても過言ではないでしょう。

そこで、かつて世界を席巻した「日の丸半導体」を率い、また没落していく姿を最前線で見てきた元NECのトップ技術者である菊地正典氏に、技術者でなくても知っておきたい半導体を巡る最新事情を解説してもらいます。(全4回の1回目)

※本稿は、菊地正典著『教養としての「半導体」』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

失われた30年

我が国は戦後の1950年代から1970年代にかけ、重化学工業などの産業を中心として急速な高度成長を達成しました。1979年にアメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルが著した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』はその一つの象徴だったともいえるでしょう。この本には、日本礼賛的な面と同時に、アメリカへの教訓・警鐘が含まれていたと思います。

いずれにせよ日本国内には全体として、戦後の復興に対する自信や達成感と同時に、油断や慢心、心の隙があったことは否めないでしょう。そんな状況の中、1970年代後半から日本製半導体の対米輸出が増加し、アメリカ国内には日本脅威論が強まっていました。

その間にも日本半導体メーカーの世界シェアは増え続け、1987年のピーク時には50%超、DRAMに至っては75%を占めるに至りました。