「国際金融のトリレンマ」という言葉がありますが、これは三つの要素が同時に成立しないという状態を示すものです。イールドカーブ・コントロール政策が始まった時に、番組の中で何回も紹介したのがこのキーワードです。
国際金融のトリレンマとは、国際金融政策において、3つの政策を同時に実現することができないことを指すのですが、その3つとは「自由な資本移動」、「為替相場の安定」、「金融政策の独立性」です。
今の状況に置き換えてもう一度整理しましょう。日本と米国のように資本が自由に行き来する二国間において、それぞれが自国の自由な判断で政策金利の水準を決定する場合、為替を安定化させることは難しくなります。金融政策が同じ方向を向いている時には問題になりませんが、違う方向を向いている時は、どこかにしわ寄せが来るわけです。
足元で米国の10年金利は再度上がってきており、4.7%という水準まで達しました。米国の金融政策が利下げに転換するかと思われていましたが、堅調な経済指標によってそれが見直されてきています。
この間も日本は利上げを行わず緩和的な状況を継続していますから、金融政策に乖離が発生しました。日本はイールドカーブ・コントロール政策をすでに撤廃して自由な金融政策を実行できますから、その歪みが為替に表れる形でドル円が円安ドル高に進行しました。
資本の自由化は止められないですし、中央銀行はそれぞれ自国を主体に考えるでしょうから、米国が利下げをしない以上、ドル円相場は160円を突破すると見ています。国際金融のトリレンマの説からいくと、それやむを得ないという話になってしまいます。
しかし、160円を突破するようなことになれば、今度は日本の金利の上昇が予想よりも大きなものになるかもしれません。実際、日銀が何も動かない代わりに、日本の10年金利が上昇しています。これは日本の銀行にとってはポジティブかもしれませんが、事業会社にとってみればネガティブでしょう。
日本はこの国際金融のトリレンマに陥ったと思われます。これは日本と米国という極めて潤沢な資金があり、市場参加者が自由に両国の株式や債券を売買する時代の中だからこそ起きる現象です。それを打開するには介入が正当化される局面に来たのではないでしょうか。このトリレンマに陥ったために、せっかく盛り上がった投資の気運や、デフレを脱却して日本経済が前に進むという気運を潰すべきではないでしょう。