アメリカ鉄鋼労組の反対を大統領候補が支持 買収は実現するか

日本製鉄とUSスチールは買収に合意しています。発表時のリリースでは、2024年上半期のUSスチール株主総会を経て、同年4~9月の成立を見込んでいました(出所:日本製鉄 USスチール買収のリリース

しかし買収は難航するかもしれません。アメリカを象徴するUSスチールを外国企業へ売却することには反発も生じているためです。

全米鉄鋼労組(USW)は買収の発表直後に「失望という言葉では言い表せない」との声明を出し、反対の立場を明確化しました(出所:全米鉄鋼労組 リリース(2023年12月18日)

さらに大統領に経済政策を助言する国家経済会議(NEC)は、USスチールの買収は対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象になり得ると声明を出しています(出所:ホワイトハウス リリース(2023年12月21日)。対米外国投資委員会は外国資本によるアメリカへの投資を規制する組織です。過去には住宅設備のリクシルグループが海外子会社の売却を差し止められたことがあります。

また米大統領選も買収にかかわってきました。前大統領で共和党の有力候補であるトランプ氏は2024年1月末、大統領に選出されればUSスチール買収を阻止すると表明しました。選挙に向け有権者にアピールする狙いがあるとみられています。

現職の大統領も労働組合票の確保に動いているようです。全米鉄鋼労組は、バイデン氏から支援を約束する「個人的な保証」を受け取ったと明かしました(出所:全米鉄鋼労組 リリース(2024年2月2日)

このような経緯から日本製鉄によるUSスチールの買収は政治問題化しつつあります。株式市場も買収の実現を疑っているのかもしれません。

日本製鉄はUSスチール株式を55ドルで取得すると発表しています。これを受けUSスチール株式は50ドル近辺まで買われました。しかしその後は55ドルまでの差を埋める動きは見られず、トランプ氏の発言後はさらに軟化しています。

USスチール買収は成立するのでしょうか。当面はUSスチール株主総会と対米外国投資委員会の動向が焦点となりそうです。