“参入障壁が低い”と言われるラーメン店が抱える問題
今の経済環境が、どのような形で小・零細規模のラーメン店にとって逆風になったのかについて説明してみましょう。
そもそもラーメン店は、参入障壁が極めて低い産業の1つです。これはラーメン店に限らず、外食産業全般に当てはまることですが、一度、大ヒット業態が出現すると、相次いでその競合が参入してきます。ちょっと前だと、立ち食いステーキ店が乱立した結果、その元祖とも言うべき「いきなり!ステーキ」は、大幅な店舗数削減に追い込まれました。
参入障壁は「差別化」と言い換えても良いかと思いますが、製品やサービス面で差別化できない業態は、最終的には価格でしか差別化ができなくなり、価格競争の挙げ句、共倒れになる恐れがあります。
これは、どのビジネスでも同じです。同レポートでも「値上げが客離れを促す恐れもあり」と指摘しているように、同じ味、内容、クオリティーのラーメンを1杯600円で出していたのが、700円に値上げされたら、お客は値段の安いところに流れます。参入障壁が低いということは、価格支配力を握れないことと同義なのです。
インフレによるコストアップが経営を圧迫
さらに、そもそも参入障壁が低く、かつ価格競争に陥りがちな業態であるところに、ここ2年くらいはコストアップ要因がラーメン店の経営を圧迫してきました。
最大の理由はインフレです。消費者物価指数の総合は、2022年4月前後から上昇するようになり、同年12月には前年同月比で4.0%にもなりました。直近、2023年12月は前年同月比2.6%まで落ち着いていますが、大半のラーメン店が顧客に供しているラーメンの価格は、この物価上昇率に追いついていないはずです。追いついていない分は、すべてラーメン店が自らの利益を削っていることになります。
政府・日銀のインフレ目標値である年率2%が今後も続くと仮定してみましょう。年2%ずつラーメン価格が値上がりしたとすると、現在600円の価格は5年後、あるいは10年後にはいくらになるでしょうか。1年複利で計算していくと、5年後には662円、10年後には731円です。
しかも、ラーメンを作り、店舗を運営していくために必要なコストである原材料費や水道・光熱費は、常に安定的に年2%ずつ上昇するものではありません。2022年2月に起こったウクライナ紛争のような地政学リスクが高まれば、資源・エネルギーや食糧の多くを輸入に依存している日本では、あらゆる面でコストアップにつながります。
そのうえ円安が進めば、円建ての輸入品価格上昇には、さらに拍車がかかります。前述したように、消費者物価指数の総合は、前年同月比で4.0%も上昇したことさえあったのです。