なぜ株式の非公開化を目指すのか

では、どうしてMBOによる株式の非公開化を目指す企業があるのでしょうか。

1番の理由は、東京証券取引所の市場改革です。東京証券取引所は市場区分の見直しと共に、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を、プライム市場やスタンダード市場に上場している企業に求めるようになりました。

PBRが継続的に1倍割れしている企業に対して、その改善に向けた取り組みや進捗状況の開示を要請する方針を示したのも、その一環です。

株式はただで上場できるわけではありません。上場時には上場審査料や、幹事証券会社への成功報酬の支払いが生じますし、上場後も年間上場料や監査法人への支払い、株式事務代行機関への支払い、有価証券報告書など各種開示書類の作成費用、株主総会の運営費用など、さまざまなコストが発生します。

こうした事務的なコスト負担増に加え、東証改革によって株価を意識した経営が求められるようになったこともあり、敵対的な株主が増える恐れも生じてきました。

一部投資ファンドの中には、PBRが割安に放置されている企業に投資し、増配や自社株買いを要求するところも散見されます。実際、2023年6月の株主総会では、90社・344議案という、過去最高の株主提案数になりました。

もちろん、これらは株式を上場することで得られるメリットに対するコストのようなものではありますが、「その程度のメリットを得るために、これだけのコストを払うのはいかがなものか」と考える企業が増えてきたとも言えます。

また経営面でも、四半期決算の開示を求められ、株主から目先の利益を実現するための要請が増えれば、長期的な視点に立った経営が困難になります。

この点、MBOによって株式を非公開化してしまえば、経営者にとっては経営の自由度が一気に高まります。長期目線で経営戦略を立てることができますし、経営の意思決定スピードを各段に上げられるので、たとえば構造不況業種の企業が思い切った構造改革を行い、事業を立て直すうえで有効な手段になります。