投資信託の活用有無で資産残高に倍近い開きが発生

DC加入者は非加入者と比較して、金融リテラシーが高い傾向がありますが、課題もあります。DC資産を定期預金などの元本確保型に放置し、何もしない層の存在です。

現時点の運用環境が好調のため、仮に2003年から同じ条件で掛金拠出があった人を比較すると、投資信託100%の人と定期預金100%の人では、運用結果としての資産残高に倍近い開きが発生している場合もあります。

企業型DCは事業主が主体となって実施しているため、これほど大きな差が生じることを問題視する事業主もあります。しかし、定期預金100%になっている人に行動変容を促すことは、かなり困難です。

DC継続教育の実施率は81.5%(※4)ですが、強制力を持った全員参加とする事業主は少なく、興味関心のない層への働きかけにはつながらないようです。その結果、熱心に考えて情報収集できる人が参加する一方、元本確保型に資産を放置している人の参加はなく、両者のギャップを埋めることにはならないようです。

また個人情報保護の観点から、加入者個々人の資産配分状況を事業主が把握することが禁止されており、誰に伝えていけばいいのか、がわからない点も改善をむずかしくしている要因として考えられます。

※4 企業年金連合会「2021年度決算 確定拠出年金実態調査結果」

OECD諸国ではデータ分析に基づくエビデンスも提示

2022年6月にOECD(経済協力開発機構)の「金融教育に関する国際ネットワーク(INFE)」は workplace(職域)での金融経済教育の課題や事例をまとめた報告書を出しました(※5)

諸外国の取り組みとして、政府機関などによる事業主への情報発信やサポートツールの提供、就業時間内での金融教育の実施を促すために、その費用を税控除できる仕組みやインセンティブ(表彰制度)の設定などが紹介されています。

こうした取り組みによって、従業員のファイナンシャル・ウェルネスが上がり、ひいては企業にとって重要な生産性の向上にもつながることを調査分析によるデータで示していることも特徴的です。

たとえばカナダでは、金融面でストレスを抱える従業員のうち、仕事中に集中力が低下している人の割合は、そうでない従業員の約5倍に達するとの調査結果が示されています。

また、イギリスでは、従業員が抱える金融面でのストレスにより、2016年のみで1200億ポンドと1750万時間の経済的損失を被ったとの推計結果を紹介しています。

同報告書では、以下のような行動経済学の考え方を応用した対応も報告されています。
・金融経済教育プログラムの参加率を高めるため、「原則参加」を設定する(「不参加」を積極的に選択しない限り「参加」)。
・金融経済教育の教材において、望ましい行動で得られる利得よりも、望ましくない行動により生じうる損失を強調する。

※5 Policy handbook on financial education in the workplace