国民的合意が得られない財政健全化
現実には、近年は毎年200兆円超もの国債が安定的に消化され、その発行金利も低下を続けている。その結果、利払い費やインフレ率も低位で推移するなど、政府債務を取り巻く環境は安定している。一部専門家の懸念をよそに、現在までのところ、財政が破綻する兆候は示されていない。
このため、消費税の引き上げや歳出削減などさらなる財政健全化への国民的な合意は得られていない。こうした「国民の声」を意識してか、岸田文雄総理は、安倍晋三元首相や菅義偉前首相と同様、「消費税は当面引き上げることはしない」と発言している。
しかし、今世紀中も継続する「高齢者の高齢化 ※2」は社会保障給付を増加させ、他の事情が一定であるならば、大きな歳出増加圧力になると見込まれる。※3※4
※2 「高齢者の高齢化」とは65歳以上の高齢者全体に占める後期高齢者のウェイトが上昇を続けることを指す。1955年には65歳以上人口に占める75歳以上の比率は29.2%だったものが、2018年には51.5%(65歳以上の高齢者3558万人のうち、65歳から74歳1760万人、75歳以上1798万人)と初めて75歳以上人口が過半数を超え、2065年には66.5%に達する見込み。
※3 内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が2018年5月に公表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」によると、社会保障給付費の対GDP比は、2018年度の21.5%から2040年度には23~24%程度になると見込まれている。
※4 財務省の試算によれば、2019年時点で、一人当たり国民医療費の国庫負担額は、65~74歳8.0万円に対して75歳以上32.4万円と約4倍、一人当たり介護費の国庫負担ではそれぞれ1.3万円、12.7万円と約10倍になっている。
こうした将来の歳出増加圧力に備え、また、今般の新型コロナ禍のような「緊急事態」に備え、政府が財政制約を気にせず大胆に機動的に対処できる余力を残しておくためにも、これ以上の政府債務残高の積み上がりを避け、可能であるならば削減しておくことは、財政の自由度を確保し、財政破綻を避けるためにも、喫緊の課題であることには疑いの余地はない。
『教養としての財政問題』
島澤諭 著
発行所 ウェッジブックス
定価 1,980円(税込)