インフレや経済成長では力不足

財政再建は、増税や歳出削減を行わずともインフレや経済成長によって達成できると主張する向きもあるが、実際には、実質経済成長要因や物価要因の債務残高を減らす方向での寄与を見ると、債務残高対名目GDP比を大きく減少させるには力不足であると指摘できる。

しかも、2000年代以降のデフレ期においては、物価要因は逆に債務残高を増やす方向に寄与している。名目金利要因に関しては、一貫して債務残高対名目GDP比を増やす方向に作用しているものの、1980年代をピークにその寄与は低下し、特に足元では政府債務残高の増加にもかかわらず、債務残高対名目GDP比の増加にはほとんど寄与していない。※1

※1 ちなみに、このような債務残高の増加にもかかわらず利払い費が増えない現象は「金利ボーナス」と呼ばれている。これは、日本銀行による金融政策などによって金利が低く抑えられていることによるものであり、財政運営を楽にするプラス面がある一方で、財政規律がうまく働かなくなり財政再建の必要性を忘れさせるマイナス面も指摘されている。

このように、債務残高対名目GDP比を減らそうと思えば、経済成長やインフレに頼るだけでは全く不十分であり、プライマリーバランスの改善、つまり、歳出削減か税収増、あるいはその両方を行うことで、プライマリーバランスを黒字化することが喫緊の課題である。

さらに言えば、金利ボーナスが作用している間に財政健全化を進めた方が、財政健全化に伴う国民の「痛み」が利払い費負担の減少分だけ小さくなるので、合理的である。