計画的な資産形成には、経済分野へのアンテナ感度を高めることが不可欠。しかし、豊富なデータの中から自分が知りたい内容のものを選び数値変化を把握するには、正しい知識と情報の読み解き方を身につける必要があります。もちろん、その背景にある歴史的な出来事への深い理解も外せません。

話題の書籍『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』では、著者で弁護士の明石順平氏が賃金や物価など、日常生活にまつわる数値データから読み解ける客観的事実について優しく解説。今回は本書の第1章「僕の給料は、この国の経済を映している」の一部を特別に公開します。(全4回)

●第3回:金融危機、経済停滞への一途…世界中を震撼させたその時“データ”はどう動いたのか

※本稿は、明石順平著『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)の一部を再編集したものです。

お金が増えていく仕組み

――まず、銀行等の金融機関がお金を貸し出すときに具体的に何をするか、考えてみよう。例えば君が銀行から1000万円を借りるとする。

その場合、銀行は現金1000万円を君に直接手渡すのではなく、まず君にその銀行の口座を開設させる。そして、その口座に1000万円を入金したという記録をつくる。君の預金通帳には1000万円が入金されたという記録が記載される。簡単にいうと「銀行が1000万円を貸す」ということは、「1000万円の預金記録を新たにつくる」ということだ。

つまり、銀行が貸せば貸すほど預金が増える。そして、みんなが一気にお金を引き出すわけではないので、銀行は実際に保有しているお金よりも、たくさんのお金を貸すことが可能であり、その分預金が増える。こうやって貸し付けによって預金が増えていく仕組みを信用創造と言う。

太郎、君も何か支払いをするときに、銀行振り込みで済ませることがあるだろう?

太郎:うん。ネットで買い物して代金を振り込んだりとかね。あとはクレジットカードで使った分が口座から引き落とされたりとか。

――そのように、預金は通貨のような役割を果たすので、預金通貨とも呼ばれている。

太郎:銀行が無限に貸し出しすれば、無限に預金通貨が増えていくことにならないの?

――それは無理だね。借りたお金をみんながいっせいに引き出すわけではないが、かといっていつまでも全部預けているわけじゃないでしょ。現金として引き出したり、支払いなどのために他の銀行へ送金したりするだろう。

例えば実際に持っているお金の100倍も貸し出してしまったら、引き出しや送金の要求に応じることができなくなり、銀行は破綻してしまう。

太郎:貸し出すにも限界があるということだね。

――そう。そして銀行が貸し出す大本のお金になるのが、日銀から供給されるマネタリーベースだ。これは、市中に出回っている日本銀行券(紙幣)、貨幣、そして日銀当座預金の合計を指す。

日本銀行券というのは、1万円札などのお札のことで、貨幣というのは、100円玉などの硬貨のこと。そして、日銀当座預金とは、銀行が日銀に預けているお金のことだ。

太郎:どういうときに日銀はマネタリーベースを供給するの?

――まず、紙幣が発行されるのは、銀行等が日銀当座預金からお金を引き出すときだ。そして、その日銀当座預金が増えるのは、日銀が銀行等にお金を貸すか、または銀行等が持つ資産を買い上げるとき。

現在は、銀行等の持っている国債を買い、その対価としてその銀行の日銀当座預金の口座残高を増やすのが基本になっている。国債というのは、国が発行する、国にお金を貸していることを証明する債券のことで、要するに国の借金のことだ。

太郎:つまり、何の対価もなくお金が発行されることはないということね。

――銀行が日銀に「発行してくれ」と頼めば発行してくれるわけじゃない。借りるか、または何かを売るかしないと、日銀からお金を得ることはできない。