システミック・リスク懸念から「預金全額補償」は妥当なのか

個人のお金を心配する向きはそれほどなかったものの、余波を心配するニュースはありました。

結局、$250,000以上の預金をしているのは企業であり、企業の資金難で給料や企業間での支払いなどが滞るのでは、とも言われました。

米財務省・米連邦準備制度理事会(FRB)・FDICの協議の末、両銀行の預金は$250,000の限度を超えて全額補償することが発表されましたが、これは今まで例のないことです。

限度額を超えての全額補償に踏み切った理由は「システミック・リスク」です。システミック・リスクとは、個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスクのことです。これらの銀行破綻が連鎖を生んで、2008年のような金融恐慌に広がるリスクを危惧したのでしょう。

ただ、この判断に同意をしない人々も多く、本当にシステミック・リスクがあったのか、あったとしても規模はどのくらいなのかについて疑問視する向きもあるようです。Silicon Valley Bankの資産高は$209ビリオン、Signature Bankは$100ビリオンと言われています。メガバンクのトップの資産高は数トリリオンレベルであることと比べれば、両行が業界にシステミックな波紋を起こすほどかについては意見が分かれるところでしょう。

しかも、このような全額補償という前例を作れば、今後の銀行破綻のときにも同様に全額補償が期待されることにもなります。

そもそも$250,000という補償リミットは、「各自、銀行の健全性に注意して、金融機関を吟味する」という預金者責任も促すもののはずだと思います。

ファイナンシャルプラニングをご利用いただくお客様で、家を売ったので一時的に大きな現金があるが、それを当面どう預けたらよいかというご質問をいただくことがあります。そんな場合、「金融機関の破綻」というようなことはあまりないけれど、もしものことを考えて、この$250,000の補償の範囲内で口座を分けたり、金融機関を分散して提案をします。個人レベルでこんなふうに注意を払っているのに、大口の企業顧客は全額保証にあぐらをかくのは問題だと思います。

今回の全額補償額は、FDICの基金から支払われます。Silicon Valley Bankの預金補償で$20ビリオン、Signature Bankのそれには$2.5ビリオンが必要だと予測されています。この多くの部分が、$250,000のリミットを超えた部分、本来なら補償されるはずでなかった部分にあたると見られています。