2023年1月、フランスで年金制度の改革案がマクロン政権より発表されると、国内では大規模な反対デモやストライキが発生しました。改革法案は3月に通過しましたが、法案成立後も国内の混乱は収束の気配を見せません。

大規模なデモを引き起こした、年金改革案とはどんな内容か

そもそも、フランス国民は何に反対しているのでしょうか? それはずばり、「年金の支給開始年齢の引き上げ(および、保険料拠出期間の延長)」です。

フランスの年金制度では、年金の支給開始年齢が62歳で、満額の年金を受給するための年齢は67歳となっていました。

今回の改革案では……

1.支給開始年齢を62歳から64歳へ段階的に引き上げ

2.満額支給に必要な保険料拠出期間の41年から43年への延長の時期を前倒し

が主な内容です。つまり、給付を2年遅らせ、その分2年多く保険料を納めなくてはならない、というわけです。

2023年9月から段階的に支給開始年齢の引き上げを行い、2030年までに64歳への引き上げを完了させ、また、満額の保険料拠出期間について、2035年より8年早い2027年から43年とする計画となっています。

マクロン大統領は、2022年の2度目の大統領選挙に出馬の際に年金制度の改革を掲げていました。大きな理由としては、現行の62歳開始では年金財政への負担が重く、この改革を行わなければ財政が悪化してしまう恐れがあるためです。

また、他のEU諸国には65歳以降の支給開始という国もあるなか、62歳の支給開始は比較的早いものであり、EU諸国とそろえようとする背景もあるでしょう。

日本では見られない!? フランスで100万人が行動を起こした理由

ただ、フランス国民の立場からすると「(年金制度を)改悪されている」と映ってもいたしかたない内容でもあります。

2023年1月に発表されたこの改革案に対して、野党だけでなく、労働組合、多くのフランス国民が反対の姿勢を見せ、国内各地で抗議デモやストライキが相次いで発生しました。抗議デモは参加者が100万人以上となる大規模なものとなっています。

フランスは、就労期間中も休暇となるとバカンスとして長期間休み、また、早期に引退することも好まれ、高齢期に働く人が日本より少ない国です(『OECD.Stat』によると、2021年の65歳以上の就業率が日本は25.1%であるのに対し、フランスは3.4%となります)。日本とは根本的に働き方、高齢期の過ごし方、年金受給の考えが異なっています。

改革によって定年が延長され、年金の受給が遅くなると、年金で第2の人生を送る計画が大きく狂うことになりかねません。こうした“お国柄”も「年金改革案に対して100万人規模のデモ」という日本では見られない光景の要因にあるでしょう。