(2)WPP(継投型)モデルがもたらす効果
WPPモデルの考え方自体は、実は特段目新しいものではありません。わが国では、退職から公的年金の受給開始までの間に私的年金を活用することを「つなぎ年金」と称しますし、同様の主張は過去にもさまざまな研究者が提唱してきました。
しかし、WPPは、私的年金等による中継ぎに「就労延長」と「公的年金の繰下げ受給」を組み合わせることで、私たちの老後生活をより盤石なものにする効果があります。その効果とは、次の4つです。
①就労延長の効果 ~さまざまな面で老後収入の増加に寄与~
就労延長のメリットとして、資産運用とは異なり収入が確実に得られることがまず挙げられます。就労延長により引退時期を1年先延ばしにすると、引退後に向けた準備期間が1年長くなり、かつ引退後の期間も1年短くなります。就労延長は、老後資金準備にとって二重の意味でプラス(準備期間の延長&取崩し期間の短縮)になります。
さらに、会社員として就労する場合、勤務先が厚生年金保険の適用事業所あるいは企業年金の実施事業所であれば、そこでの勤続期間は公的年金の被保険者期間や企業年金の加入者期間に算入されるため、将来の公的年金・企業年金の増加が期待できます。
②公的年金の効果 ~終身給付は公的年金保険が最も効率的~
先ほど「公的年金の最大の機能は終身給付(終身年金)である」と述べましたが、じつは、終身給付は私的年金よりも公的年金で提供するほうが効率的なのです。
終身給付は、「不幸にして早期に亡くなった方」の給付原資を「想定以上に長生きしている方」へ移転するという加入集団内でのリスク移転を行う前提で制度が設計されています。そのため、長生きする自信のある方がこぞって加入してくる可能性の高い私的年金よりも、長生きする方もそうでない方もまとめて強制加入させる公的年金のほうが、効率的(同じ年金額なら保険料が低額 or 同じ保険料なら年金額が高額)な終身給付の提供が可能なのです。終身給付という機能を有する公的年金は、老後のための単なる貯蓄ではなく、国民全体で長生きリスクに備える「保険」なのです。
これは、貯蓄や資産運用では逆立ちしても真似できない機能です。
余談ですが、「長生きリスク」という言葉を使うと「長生きはめでたいことなのにリスクとは何事か!」とご立腹する方を稀に見かけます。もちろんそのような意図はなく、長生きすること自体は非常に喜ばしいことです。本書では、長生きすることで生活資金が枯渇してしまうかもしれないリスクという意味で長生きリスクという言葉を用いますので、ご承知おきください。