「ESGブーム」はどこへ

もう一つ私が気になっているのは、いわゆる「ESG投資」への関心度合いです。

実は私自身、企業年金の運用担当者としてはESG投資ブームに懐疑的でした。環境への配慮や社会的責任といった要素は、母体企業(新聞社です)にとっては非常に重要だと考えていました。しかし、企業年金にとっては長期安定的な年金支給ができるかどうかだけが大事。1にリターン、2にリターン、3、4がなくて5にリターン。そう、公言していました。

でも当時、私みたいな言動は少数派。セミナーや個別商品の売り込みもESG関連が席巻していたように思います。

それが今、劇的に変わったのではないでしょうか。エネルギー関連や防衛産業への投資が昨今、大規模なものになってきました。

ウクライナ侵攻が1つの引き金になったのは間違いありません。米中対立に象徴されるサプライチェーン断絶の問題も顕在化しています。「ESG」のうち、E(環境への配慮)、S(社会的責任)に抵触するとして忌避されていた企業銘柄が、資産運用に重要な存在として浮上してきた現実があります。

もちろんESGという考え方の重要さが消えたわけではないでしょう。セミナーや専門誌のテーマとして、引き続き一定程度は採り上げられています。でも、その「露出度」は大きく低下したと感じています。

市場を避け、直接「果実」にアクセス

こうした現状の底に、音楽にたとえると1つの「通奏低音」が流れている気がします。

それは、予測不可能な出来事に大きく揺さぶられる「市場」を避け、確度の高いリターン源泉に直接アクセスしたい。そういった指向性ではないでしょうか。

アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)の利上げのタイミングが遅れ、マーケットとの対話もギクシャクしているように見えます。

昨年12月末の日本銀行による突然の金融政策変更にも驚かされました。それまで「事実上の利上げに相当する」と説明していた長期金利の上限引き上げについて、黒田総裁は「これは利上げではない」と言い張って恥じるところがありません。

政府や中央銀行といった権威とは「心中」できない。

企業年金の運用の現場と周辺には今、こういった空気感が漂っているように感じます。